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     06

「いつまで寝ているつもりです」
「………」
「全く、そんな調子で奥村燐の…」
「………」
「……クラリエ?」

目の前が霞んで見える
内側から侵食されているような、そんな気分

覚えがある

「何人か……いや、一人でいい、何なら貴方でもいい」
「…寝ぼけてるんですか?」
「………この世界で生きるのに限界を感じる…」
「今更何を言い出すのかと思えば…」
「血を受けないとその内死ぬかも」
「………」

戦場での食料調達には困らなかった
困るのは終戦後と冷戦時

国民は全てが平等に女王陛下の所有物であり、それらに牙を立てる事は憚られたし、何より戦士としてのプライドが許さなかった、守るべきものを傷つけるなどできないと

そんな時どうしていたのか、食用の家畜に目を向けるのが殆ど
トゥーレやナディシュ、イェニも可能だが、彼らの血は好みが分かれ、メレス同士は不毛で危険な行為
そうなればやはり家畜に落ち着くのが自然だが、断言できる、この世界で家畜を襲えば恐ろしい結末が待っていると
少なくとも、目の前の男はいい顔をしないだろう

「驚きました、吸血鬼にも“死”という概念があるんですね」
「吸血鬼は不死だとでも?まあ確かに、戦場で吸血鬼の死体だけは見当たらなかったけれど、でもある日突然死は訪れるわ」
「寿命ですか」
「……何か用意してくれないかしら、暫く口にしていないから本当に危ないわ」
「まだこちらに来て数日しか経っていませんよ?」
「この世界に来る前、数年前に戦争が終わって、気軽に血を受けられる状況ではなかったから1月程断っていたの」
「…存外不便なものですね、吸血鬼というのも」
「………」

男はゆっくりと歩み寄るとベッドへと腰を下ろして溜め息をついた
手慣れた手つきで首周りの装飾物を剥ぎ取ると露になった首筋

「いいの?」
「不本意ではありますが、私には貴方を生かす義務がありますからね」
「………ありがとう」

久しぶりに感じる人肌、血の芳香な香り

そっと肩に手を添えて首筋に舌を這わせる

「あまり…汚さないでくださいね…」

牙が皮膚を裂く音も、何年ぶりだろうか
家畜とは違う響きを思い出しながら牙を立てる

「っ、」
「………」

皮膚を裂いた瞬間、男の体が僅かに動いたが、躊躇わない
そのまま溢れ出る血を心行くまで堪能する為に目を閉じた



「いい、かげん…放してください」
「………」

どれほど受けたか分からないが、男の顔色が先程よりも悪そうなのを見て、僅かに胸が痛んだ

手を伸ばし腕を回す

「テシェキュレ」
「…何です?」
「ありがとう」
「ああ、どういたしまして」

戦場で他国の人間の血を受けるのとは違う、とても気分がいい

「本当にありがとう」
「……さっさと着替えて塾に行ってらっしゃい」
「ええ」

何故だか不覚にも泣き出しそうになった






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あきゅろす。
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