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 05

「あら?」
「え、あ…!」

うっかり寝坊して2時間の遅刻をしたのが災いしたのか、奥村燐の隣には見知らぬ少女
顔を真っ赤に染め上げて可愛らしい唇をパクパクと動かしている

「杜山しえみ、今日が初授業」
「そう…私はクラリエ、クラリエ・ヒルドール、宜しくね、しえみさん」
「ぃよっ宜しくお願いしますっ!」
「寝坊か?にしては寝すぎじゃねえ?」
「明け方まで“まんが”を読んでたから…」
「へえ?なんてやつ?」
「“すらむだんく”」
「おお!俺も好きだ!」

「そこ!静かにしなさい!」

こめかみに青筋を浮かべながらこちらを睨む教師に小さく頭を下げて、二人の後ろの席へと腰を下ろした

淡い金髪に、円らな瞳
鮮やかな色彩のキモノ、ノートを覗き込む限り綺麗に書き込まれた文字

「………」

姉とは真逆なタイプだ、そう内心で呟いて、微笑んだ

トゥーレな上に優秀な姉二人は見るからに気が強そうで、母譲りの黒く美しい髪を惜しげもなく垂らして、灰の瞳で真っ直ぐに前を見据えている、そんなイメージしかない
ドレスやローブを嫌って、普段から紳士用のスーツを好んで着ては堅物な兄を微妙な顔にさせ、物事を恐ろしく大雑把に捉える、変わった姉だった

そこまで考えると無性に家族が恋しくなった

開いたノートに家族の名前を書き込み、順に読み上げる、心の中で

しかしすぐにノートを閉じると、教壇で教科書を読み上げる教師に視線を移した



「く…あー…よく寝た…」
「ずっと寝てたもんね」
「い、いやあ、体動かさない授業はどうも…」
「そ、あ、あのっヒルドールさんっは…!……あれ?」

振り返るとそこにはひたすらにノートに何かを書き込むクラリエの姿
何をそんなにも必死になっているのかと、ノートを覗き込めば、見えたのは、不思議な文字の羅列

「何だあ?それ」
「え?…ああ…ただの言葉遊びよ」
「母国語か?全然読めねえ」
「授業は終わったの?」
「うっうん!」
「そう、なら先に帰らせてもらうわ」
「まだ授業あるぞ?」

天井近くの窓を見上げて目を細める

「気分が悪いの…」
「だ、大丈夫か?何だったら雪男にでも診てもらえよ」
「ありがとう、それじゃあ」

荷物を手に教室を出る
薄暗い廊下が妙に居心地が良く感じて呟いた

「いい大人がホームシックだなんて、情けない」






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