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  04

「い、異世界?」
「おや信じられないって顔ですね?」
「いや、…その…」
「頭堅いわねえ、目の前に物的証拠突きつけられときながら、まだ信じないなんて」
「………」

胡散臭そうな視線に勝ったと言わんばかりの表情で返してみせるクラリエ

教室で奥村雪男に色々と暴露した事がメフィストにバレ、有無を言わせず理事長室に連行されたのだが、ハッキリ言って長い説教に飽きていた
そもそも反省する気など微塵もなく、むしろ隠していたお前が悪いのだろうと開き直るのもいいかもしれないと考え始めた頃に事情を聞きに来た奥村雪男に救われる

「分かりました、異世界が確かにあるとして……ただ、あの“ヒルドール家”とは関係ないんですか?」
「まあ、ない事を願うわ、私の家は私がここに来るまで確かに存在していたし、ヒルドール家がヨーロッパを恐怖に陥れただなんて話、聞いたこともない…仮に事実だったとして、そんな事が公になっているのなら女王陛下がお許しになるはずがないもの、爵位剥奪の上、国外追放…いえ脅威に直結するから禁錮が妥当かしら……全く、言い出した人間の妄言に振り回されるこっちの身にもなってほしいわ」
「……貴方は吸血鬼だと言いましたけど…」
「悪魔と魔女のメレスよ、お兄様とお姉様方はトゥーレだけど」
「トゥーレ?」
「魔法使い同士の子供の事」
「と、まあ、見事に我々の“敵”というカテゴリを埋めているわけです」

悪魔と魔女の血を引く“悪魔”ですからね

ピクリと眉を動かすが、無言で近くのソファーへと腰を下ろす

あまり悪魔悪魔と連呼しないでほしい、とは言わない
自分の置かれている状況くらい分かっているつもりだ
騎士團の名誉騎士だというメフィストがどうして自分を匿う気になったのかは分からないが、メフィストの気が変われば自分は一転して追われる立場

今は大人しくしているのが良策
とはいえ、気分は良くない

目の前で胸くその悪い話をする二人を眺めながら尋ねる

「貴方達の言うところの“魔女”はそんなにも悪い存在なの?」
「そうですねえ…騎士團にとっては異端ですから、野放しには出来ません」
「それだけの理由?くだらない、仮に魔女が異端だとしても、お母様はヒルドール領主として与えられた仕事はこなしていたし、同国民には決して危害を加えない立派な魔女だったわ、まあ少々…実験狂の気はあったけれど」
「それでも、騎士團は魔女を異端と判断します」
「………」
「魔女は異端で、かつ魔に属するものですから、すべからく粛清されるのですよ」

自分の母親が、魔女だという理由だけで粛清されて然るべきだと断言され、胸が圧迫されているような、そんな言い様のない不快感が心を占める

左腕が未だ痒み、ボリボリと掻きむしる

「………どうかしましたか?」
「え?……ああ、久々に再生したせいか異様に腕が痒くて」
「……あ、もしかして…銀が…」
「銀?」
「吸血鬼には猛毒だとされる物です、元の世界にはありませんでしたか?」

メフィストは席を立ち、近くの棚を物色しながら尋ねる

銀の食器など銀色の物は度々目にしたが、それらが自分にとって猛毒だとは知らなかった

雪男が若干申し訳なさそうに眉尻を下げたのを見て、鼻を鳴らす

「気にする必要はないわ、避けなかった私のミスだもの」
「ああ、ありました」

そう言って投げて寄越されたのは、小さな包み紙
不思議そうに眺めていると定位置に戻るメフィストが愉快そうに呟いた

「麻薬の一種です」
「フェレス卿!?それは違法…!」
「悪魔にはただの薬ですよ、袋の中に粉が入っていますから、水で飲んでください」
「………」

丁寧に袋を開ければ言われた通り、粉末が見えた
同時にメフィストが指を鳴らせば、近くのテーブルにグラス一杯の水が現れる

便利だと思う一方、あれは魔法ではないのかと首を傾げた

「飲めば治るの?」
「保証はありませんが」
「適当ね」
「褒め言葉として受け取りましょう」

渋々それを口に含めばじわじわと胸の辺りから何かが広がる

舌先からピリピリと突き刺すような痛みを覚えたが、不思議と不快感はなかった
なるほどこれが麻薬かと頷くとメフィストが満足そうに笑っているのが見えた

「どうです?」
「そうね…悪くないわ」
「それは良かった」
「……それじゃあ、話も一段落したようなので、私は部屋に戻らせてもらうわね」
「寝るにはまだ早いですよ?」

時計を見れば16時を回ったところだった
次いで、チラリと窓に視線を移す
太陽が沈みかけ、血のように赤い光を発していた
メフィストに与えられた、紫外線を遮断するクリームのおかげで日中であっても外出は可能だろうが、眩しすぎる

眼球の裏側がズシリと重い

「…ああ、これはこれは…気が利かなくてすみません」
「………それじゃあ、先生…また今度…」

部屋を出て廊下を歩きながら盛大に溜め息をつく

「あと6時間…何をしよう…」

この世界にいつまでいられるのかは分からないが、人間と同じ生活スタイルに変えなければならないのが難点だ
故郷では丁度今頃が起きる時間だというのに、これでは昼夜逆転、なんて不健康極まりないのだろうか

「メフィストにもらった“まんが”とやらでも読んでみようかしら…」

確か“すらむだんく”とかいうスポーツものがあったはずだ、そう呟き、部屋へと姿を消した






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