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   23

4度の戦争を経験したが、どれも退屈なものだった
我々メレスは首をはねられたところで死にはしないし、朝日と共に敵味方が自陣へと撤退し、負傷したコルマとウルサンの治療に当たるだけ
ただ、戦争のない時期の方が余程“死”に直面していたと思う

今みたいな

「うわあぁああぁっ!来ないでよー!」
『撤回なさいよ』『木精と』『一緒に』『されるなんて』『心外だわ』『ねえ?』『そうよねえ』
「っていうかここはどこなのよぉ!」
『全く』『私達をあんな』『低能な悪魔と』『比べるからよ』『間抜けねえ』『ねえ』
「いやあああぁあぁあ!」

何やら逆鱗に触れてしまったらしく、森の中をひたすらに追いかけ回されていた
木という木からわらわらと湧いて出てくるニンフ改め森精から逃げ回っている内に完全に迷ってしまったらしい

「女神の眷属じゃなきゃ貴方達なんて…!貴方達なんて…!」
『負け犬の』『遠吠え』『ふふ』『あはは』『おもしろーい』

前回の北海道地区のニンフ討伐は楽だった
仕事であったというのもあったが、何より凄まじい程の殺気が身を包んでいたから苦労はなかった
躊躇いこそあったが、些細な事だ

それが今はこのザマ

「楽しんでるわね!?私が泣き叫ぶ姿を見て楽しんでるのね!?」
『逃げ惑う相手を』『追いかけ回すのって』『楽しー』
「性悪!」
『ほらほら』『もっと』『必死になって』『逃げなさい』
「もういやあぁ!誰か助けて…!」

「全く…貴方って人は…いや貴方って悪魔は…」

「メフィスト!」
『あらあ』『メフィスト』『卿だわ』『ヨハンじゃない』『久しぶりねフェレス卿』
「ヨハン?」
『最近全然』『遊んでくださらないんだもの』『退屈しのぎに』『この醜女の』『相手をしていた』『ところよ』『ヨハンも』『ご一緒しない?』
「折角のお誘いだが今日は弟も一緒でね」
『あら』『アマイモン様もご一緒?』『なら』『またの機会ね』『またね、メフィスト』『たまには』『遊びにいらっしゃい』

瞬く間に姿を消した森精達
思わず呆気に取られているとメフィストは笑いを堪えつつ尋ねた

「何故森精と?」
「それより貴方はどうしてここに?」
「何、面白いものが…」

その笑みに嫌な予感を覚えた
とりあえず殴るのは後回しだ、そう自分に言い聞かせて走り出す
冷静になった頭を働かせ、木ノ上へと飛び上がりかがり火を探す

同時に花火が上がった

「………花火はギブアップの合図だったかしら…」

ならそちらに向かい塾生の救助に向かうべきなのだが、クラリエはそちらには向かわず、僅かに明るさを放つ方向へと走り出す

嫌な予感が占める

「おや」
「ッ!」

進行方向に現れたのは

「(急に目の前に来られたら!)どっ、いて!」
「わー」

気のない声を上げてサラリと避けるのは、先程話題に上がり、クラリエの感じた嫌な予感の元凶たる男
アマイモン

鎖を手に呟く

「ベヒモスの餌にしてあげましょうか?」
「え、遠慮します…」
「可愛くないなあ」
「悪いけど今貴方の相手をしている場合じゃ…」
「冷たいなあ、食べちゃえ」

鎖から解き放たれて襲いかかってきた悪魔を蹴り上げ一目散に走り去る

「冗談じゃない!今あんなのに構ってたら命がいくつあっても足りないわ!」

ほぼ不死と言っても過言ではない身で何を言っているのかと自分自身に突っ込みをいれるが足は止めない

嫌な予感は確信へと変わった
メフィストと、アマイモン、この二人がこの森にいる
という事は、奥村燐絡みである事はまず間違いない

メフィストは一体何を考えているのだろうか、奥村燐を懐柔しろと言うからには手懐けたいのだと思っていたが何か違う
アマイモンを使って何かを試しているような、そんな気がしてならない

間違って死んでしまっても問題ない、そんな気すらする

「一体、どうしたいの…!」

漸く拓けた場所に出たかと思えば休む間もなく現れたアマイモン

「ゴー!ベヒモス!」
「お前は!」
「ボヤッとするな!」
「ッ!」
「待ちくたびれたよ…!」

口笛に反応したのか、地中から蛇が這い出る
その身に火が灯ったかと思うと瞬く間に火が回り、陣を描いた

「クラリエ!いたのか、早く来い!」
「え…」

目眩を起こす程の光が辺りを包んだ、かと思うと、アマイモンが“弾き飛ばされた”

「………え?」
「魔法円を描いた時に中にいた者は守られ…それ以外を一切弾く絶対牆壁だ、まあしばらくは安全だろ」
「ちょ…!」
「絶対牆壁…!?」
「そんな事よりさっきのは何なんですか!?」
「これも訓練なんですか?いくらなんでもハードすぎじゃ…」
「訓練は終了だ、今からアマイモンの襲撃に備えるぞ」
「…は?アマ…!?」
「CCC濃度の聖水で重防御するから皆こっちに集まれ」
「アマイモン!?」
「アマイモンって八候王の一人の…“地の王”ですか、さっきのが!?」
「そうだよ、祓魔師程度じゃ到底敵わない超大物だ、だから防御するってんだろう、ホラ並べ!」
「なんでそんな大物が…!」
「何かの冗談…でっ、すよね」
「ぅおっと…アブねッ、お前にかけたら大変なところだった…と、お前もか…面倒だな…」
「お気遣いどうも」
「並べ!“元始に神天地を創造り給えり”…よし、まあこれでいざ何かあっても体が乾ききるまでダメージを軽減するだろ」
「奥村達には何もせえへんのですか?」
「あー…コイツらなんつーか聖水アレルギーでさー」
「聖水アレルギー!?」

塾生達が慌てふためく中、クラリエは妙な違和感に悩まされていた

「臭い…」
「あ!?」
「ああ、勝呂くんじゃないわ…」

何だろうか、この臭い…

「鼻につくこの臭い…どこかで…」
「どこかでって…どないやねん…」
「……お姉様の部屋かしら」
「お前…自分の姉貴の部屋を臭いとか…」
「香水か何かですか?」
「…お兄様かも…」
「酷いことゆわはりますね」
「………」

本当にどこで…

「杜山さん!?」
「ッ!?」

慌てて振り返ると描かれた陣から出ていく杜山しえみの姿

いっそう強く香ったのは…

「ああ!お姉様の部屋だ!」
「え!?」

「おいおいおいおい!止めろ!」

完全に陣から出てしまった杜山しえみの傍らに降り立ったのは、弾き飛ばされたアマイモン
その小さな体を抱き上げ、大きく跳躍

「ま…まてこのトンガリ!」
「コラ!お前が待て!」

「どうりで、臭いと思った」
「何でそんなに冷静なのよ!」
「だってアマイモンはここに入ってこられないんでしょう?」

「お前らは死んでもその牆壁から出るなよ!」
「そんな…!」

空が白み始めた






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