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「皆さん今日から楽しい夏休みですね!ですが候補生の皆さんはこれから“林間合宿”と称し…“学園森林区域”にて3日間実戦訓練を行います、引率は僕、奥村と霧隠先生が担当します」
「にゃほう」
「夏休み前半は主に塾や合宿を強化し、本格的に実戦任務に参加できるかどうか細かく皆さんをテストしていきます、この林間合宿もテストを兼ねていますので気を引き締めていきましょう」

候補生になった塾生達が元気よく返事をする中、一人日陰で様子を窺うクラリエ

「それから…今回祓魔師に昇格されたヒルドールさんも今回の林間合宿に同行して頂きます」
「いたのかクラリエ!」
「いたわ…ちょっと奥村先生、よくも私をこんな場所に…」
「仕方ないでしょう、フェレス卿の指示です」

帰ったら殴り飛ばす事を固く誓い、歩き出した団体の後方を渋々歩くが日傘を持つ手が震えていた

「(何だってこんな昼間から好き好んで外出したがるのかしら人間って…信じられない…!奥村燐を懐柔しろなんて軽く言ってくれたけどあの男、試験に受かって祓魔師としての仕事も増えて?その上塾にも変わらず通わされて?更に奥村燐の件もやってのけろって?私を執事か何かと勘違いしてるんじゃないの!あー腹立たしい!)」
「顔色があまりよくありませんね、大丈夫ですか?」
「私室に入り込んだ挙句淑女の布団を剥ぎ取るような色眼鏡と並んで歩きたくないわ、顔色が悪い?お前のせいよ“奥村先生”?」
「雪男…!お前…!」
「雪ちゃん…!?」
「ごっ誤解です!」

その後山道を散々歩かされ、日差しは強くなる一方
終いにはテントを張るよう奥村雪男に指示された時は流石にうっかり殺しそうになった

「私の今日の仕事は日が落ちてからだったはずよ!」
「塾生でもあるんですから協力するのは当然です!」
「メフィストには祓魔師としてのスキルを身に付ける以外は祓魔師として仕事に従事しろと言われているの!日が落ちればいくらでも協力するわよ!貴方私を殺す気!?」
「大袈裟な…」
「私達メレスが日の下で行動すればどうなるか知らない貴方じゃないでしょう…!」

ただ寝起きに無理矢理連れてこられて機嫌が悪かったわけではなく、純粋に恐怖心からの発言だと分かると奥村雪男は静かに謝罪の言葉を呟いた

「すみませんでした…」
「………分かれば…」
「おーい、そんなとこで突っ立ってないでこっち来て一緒に…」

背後からやって来た奥村燐がクラリエの肩を掴んだ拍子、気が弛んでいたクラリエの手からゆっくりと日傘が落ちた

「うわあ!ごめんごめ…」
「兄さっ…うえぇ!?」
「………」

凄まじい勢いで身体中の細胞が動き出すのが分かった
紫外線によって破壊される皮膚を次から次へと再生しようとする細胞

「………」

再生が追い付いていない…ああこのまま死んでしまうのか、随分と呆気ないものだ、そんな事を内心呟くと聞こえてきたのは笑い声

「ぶはははは!どっどうした、んだよクラリエ…!」
「お、奥村くん!笑いすぎです!」
「………え?」

両手を見ると赤黒くなった皮膚が視界に入る

おかしい
昔見た同朋の死に際と違う
紫外線に当たるとたちまち皮膚という皮膚が爛れ、次いで鮮血が噴き出し辺りを赤く染め上げる、最期には異様な悪臭を放って骨も残さず消えるはず…

それがどうだろうか、ジリジリと鈍い痛みを発しているだけで…

「…生きてる…」
「ははははは!はあ…!日に当たった瞬間日焼けするとかどんだけ…!すげえ…!ひー…!」
「奥村くん!」
「生きてる!」
「へ?」

予想外の反応に奥村燐も奥村雪男も目を丸くしてクラリエを凝視するしかない

「ホーリカ!タンルっテシェキュレデッラ!」
「へ?え…?」
「悪かったわね奥村先生、さてテントは張り終わったのかしら?あらまだじゃない、やるわよ燐!」
「お、おう!」





「いやあ、ビックリしたなあ、クラリエにそんな秘密があったなんて…ぶふっ…!」
「私も驚いたわ…てっきり死んで灰になるものだとばかり…醜態を晒さずに済んで本当に良かったわ」
「え?」

カレーを食べ終え、塾生達が纏まって後片付けをする中、徐に腕を捕まれ振り返ればそこにいたのは

「霧隠先生…何か?」
「なーに、ちょっと付き合え、悪いようにはしねーよ」
「………」

森の中へと突き進むシュラの後を追いながら尋ねる

「こんな所まで来て私に何か聞きたい事でも?」
「そうだな…とりあえずお前はサタンに纏わるものでも何でもねーからな、排除はしない」
「それは良かった」
「ただし」

シュラを取り巻く空気が一瞬にして変わったのを見逃さなかった

懐かしい空気だ、そんな事を思いながら浮かべるのは笑顔

「メフィストが何を企んでやがるのかは知らねーが、お前をこのまま野放しにするのは危険すぎる」
「あら、何故かしら?」
「吸血鬼なんざ首輪で飼い慣らすのが世の習わしでね!」

シュラが何かを呟くと胸の谷間から変わった模様の刀が姿を見せる

研ぎ澄まされた殺意を受けても尚、クラリエの顔から笑顔が消える事はなかった

向かってくる切っ先を眺めながら歌うように口を開いた

「サンサナンルシュマンム?」
「ッ!?」

何が起きたわけでもないが、シュラはその場を飛び退き、理解できないとでも言いたげな表情でこちらを窺っている

「………何だ…?」
「悪魔の囁きでも何でもなくってよ、ただ貴方は私の敵か味方か尋ねただけ」
「………」
「まあ、あえて言うならメフィストの敵ってところかしら?なら私の敵ね」
「…メフィストとどんな契約を結んでるかは知らねーが、大人しく…」
「契約、ねえ…」

指先をゆっくりとシュラへと向けると呟いた

「これを契約と言うなら彼は私を甘く見すぎね」
「ッ……く、そ…!」

シュラの頬を伝うのは真っ赤な鮮血
それを見た瞬間心臓が高鳴ったが、静かに息を吐いて心を落ち着かせる

大木に刺さったままの爪を引き抜き尋ねた

「吸血鬼には首輪ね…それを嵌めてどうするの?」
「………吸血衝動をコントロールして…祓魔師の支配下に置く…」
「それなら必要ないわ、血を受けるならメフィストだけと決めているから」
「はあ?」
「メフィストには内緒よ、彼の血はとても甘美で…思わず恋してる気持ちになるのよ、まるで麻薬ね」
「趣味わりーな…お前…」
「だから内緒よ、私だってあんな趣味の悪い格好したおじさんに恋してるみたいなんて口にするのも恥ずかしいんだから」

ふふふと小さく笑って見せればシュラは盛大に溜め息をついて塾生達の元へと戻っていった
残されたクラリエは木々の間から見える夜空を見上げてもう一度だけ呟いた

「本当に恥ずかしいったら…」






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あきゅろす。
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