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「…はい、終了、プリントを裏にして回してください……今日はここまで、明日は6時起床、登校するまでの1時間、答案の質疑応答をやります」
「ちょ…ちょっとボク夜風にあたってくる」
「おう冷やしてこい…」

「朴、お風呂入りにいこっ」
「うん…」
「お風呂!私も!」

「うはは、女子風呂か〜ええな〜、こら覗いとかなあかんのやないんですかね、合宿ってそういうお楽しみ付きもんでしょ」
「志摩!お前仮にも坊主やろ!」
「また志摩さんの悪い癖や」
「一応ここに教師がいるのをお忘れなく」
「………」
「………」
「……教師いうたってアンタ結局高1やろ?無理しなはんな?」
「僕は無謀な冒険はしない主義なんで……それに、女性の前で覗きがどうだとか言うのも…」
「女子なら風呂に……あ」
「………ん?」
「な、何や、ヒルドールさん…風呂入りに行ったんと…」
「最後でいいわ、誰かと一緒だと落ち着かなくて」

片付けを済ませて、そのままテーブルに突っ伏しながら耳をそばだてる

廊下をフラフラと歩く奥村燐と、先程風呂に向かったばかりの女子三名の足音

「………」

妙だった
余計な物が紛れ込んでいるような、そんな気配に無意識に眉間に皺が寄る

「…にしても…明日6時起床で学校も普通に通わなあかんて、どんだけハードスケジュール…」
「そうか?俺は別に…」
「坊はええかもしれんけどー……ヒルドールさんもそう思わん?」
「え?…そうね、少し遅…じゃなくて、早いわね」
「やろー?」
「………ッ!?」
「ヒルドールさん?」

突然立ち上がり、窓の外を睨むクラリエを不思議そうに見る面々
しかしクラリエもクラリエで、そんな事には構ってはいられなかった

「(おかしいと思ったんだ…)」

先日の授業から感じていた、突き刺さるようなこの感覚
目的が何にしろ、何か企んでいるのは間違いない

「ヒルドールさん…どうかしはったんですか?」
「………」

窓を開け、目を凝らすが流石に気配だけでは居場所を特定するのは難しかった
仕方ない、外に一回出て…とそんな事を考えていると聞こえてきた悲鳴
空気が一瞬にして張りつめ、雪男が腰を上げる

「燐が向かった!」
「兄さんが!?」

それは、色々と拙い
そう思ったのか、誰よりも先に走り出す雪男
それと同時にクラリエは窓の格子に足をかける

「ちょ!ヒルドールさん何考えて…!」
「浴衣やねんから少しは…!」
「少しは、何?燐に何かあったら…」

私が怒られるのよ!

そう叫んで飛び降りた

「ええぇぇえええ…!」

地面が思っていたよりも軟らかく、着地が思うようにいかなかったが、問題はないだろう
そのまま走り出し、気配の元を辿る
しかし女風呂の元にいる悪魔の気配に気を取られ集中できない、それに加えて格好がユカタというのがいけない、走りづらくて適わない
そう内心で呟くと立ち止まり裾を思い切りたくし上げ、引き千切る
乱雑に布を投げ捨てると懐から紙切れを取り出し、先日初めて召喚した使い魔を呼び出す
現れた使い魔、アルカは気持ち良さげに旋回すると尋ねた

『仕事か』
「前に呼び出した時、教室にいた男を捜してほしい、ネイガウスという男」

分かった、それだけ呟くとどこかへと飛んでいった

そのままアルカの羽音にだけ何とか集中していると聞こえてきた合図
脳内に直接響くような、キンキンとした音の方角へ視線を移せば、そこに見えたのは要望通りの男の姿

「………」

建物の頂上に立ち、その傍らには、ナベリウス

「ネイガウス…!」

思い切り地面を蹴り、建物の頂上に向かって走り出す
数秒も経たない内に建物に辿りつくとそのまま跳躍し、目の前に現れた男を睨んだ

「どういう事か説明してもらいますよ」
「……何がだ」
「恍けないで、授業中のあの違和感……貴方、私を知ってるわね」


『どうしたヒルドール、試さないのか?』


「………」
「それに加えて今回の…」
「異端児が…あまり調子に乗らない事だ…」
「ッ!?」

背後に突如現れたのは、屍

「(いつから…!)」

そのグロテスクな腕が足を掴んだかと思うと、いつかのように握り潰された

「ぐ、ぎゃあぁあ…あ、っ!」

ぺしゃんこになった片足を更に踏みつけられ、引き千切られた
目尻から溢れ出た生理的な涙

「いぁ…ゔ…!」
「お前には手を出さないよう言われてはいるが…何、お前の再生能力を持ってすればそれくらいわけないだろう…」
「う…ぐ…!」
「………」

男の足が一歩こちらに近づくのを察し、身構えるが頭上から聞こえてきた声に思考が止まった

「あまり余計な事をするな、ネイガウス」
「……メ、フィス、ト…?」

どうしてここにいるのか、そう問いかけようと口を開くが、ネイガウスの視線がメフィストに注がれているのに気づき、急いで引き千切られた部分から少し上を整えるように切り落とした
悲鳴が出そうになるのを必死に抑えながら再生するのを待った

「なかなか難儀してるようですね、手を貸しましょうか?」
「…うるさ、い」

完全に再生が終わると立ち上がり、隣に立つ男を睨みつけた

「どういう事…」
「訳なら後で話しましょう、それよりも早く戻りなさい、4階から飛び降りて無事だった言い訳でも考えながらね」
「………」

言われるがまま歩き出し、屋上の縁から身を投げる

やはり地面は軟らかく、着地が上手くいかなかった






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あきゅろす。
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