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先日与えられた拳銃2丁を細部までバラバラに分解し、丁寧に組み立てていた時だった
どこか煮え切らない様子で男が口を開いた

「少し…頼まれてくれたり…」
「内容にもよるわね」
「………」

目の前に差し出されたのは一枚の紙
それを奪うように受け取り、内容に目を通せば何て事はない、ただの買い物リストだった

甘味が占める割合の高さにただただ呆れる

「悪魔って病気にならないらしいけど、実際のところどうなの?」
「お陰さまで無病息災ですよ」
「ああそう」

立ち上がり扉に手を伸ばすと聞こえてきた声

「何かあったら電話しなさい」
「……迷子の心配なら必要ないわよ」
「そうですね」

しかしその言葉に何やら不穏な空気を感じたので、懐に忍ばせている携帯電話とやらを服の上から確認する
確かにある、そう内心で呟き、随分前に渡された鍵を差し込んだ
今度こそ扉を開けるとそこは当然のように廊下ではなく、かといって学園内でもなく、例えるなら城下町のような活気に溢れる町並みだった
太陽の光が予想以上に強く感じ、慌てて日陰へと飛び込む

「……どこかしら」

日陰の中を適当に歩を進め、見覚えのある景色はないかと視線を泳がせる
ふと左の方に学園を象徴する(には些か奇妙な)建物が見えたのでとりあえず胸を撫で下ろし、手に持っていた紙を見つめて再び歩き出した

良い匂いが歩く度に鼻を掠めて気分がいい

ふと、店番か何かだろうか、忙しなく手を動かす女性を見つけて歩み寄り声をかける

「すみませんこれはどこに行けば買えますか?」
「いらっしゃい!ああそれならこの先をずーっと行った所にある……あのデカい建物見えるかい?あそこに行けばいいよ」
「ありがとう」

そう言って頬を寄せれば女性は肩を揺らし照れくさそうに笑った

「外国の方かい?」
「え?ええ」
「日本へは観光か何かで?」
「ええ、まあ」
「それならこれを持っていきな」

渡されたのは程々に丸い茶色の物体

「これは?」
「たこ焼きだよ、知らないのかい?」
「たこ焼き…」
「これをこうやって刺して…食べてみな、熱いから気をつけてね」

言われた通りに口へと運ぶとあまりの熱さに目を見開いた
女性はクラリエの反応が面白いのか楽しげに笑っている
どうにか飲み込もうと試行錯誤している内にたこ焼きは冷め、余裕が出てきたのか、次第に広がってきた独特の味や香りが分かるようになった

「……美味しい!」
「だろう?」
「あ、おいくらですか?」
「あげるよ、観光楽しんでね」
「ありがとう」

もう一度頬を寄せればやはり照れくさそうに笑っている
小さく頭を下げてその場を後にすると徐々に道が人で溢れてきた
目的の建物はまだまだ先に見える
人混みに揉まれながら歩を進めるには些か気が引けたので適当な場所で横道に逸れた

感覚だけを頼りに、建物を目指して歩き続け、そろそろ着いただろうと表へ戻ったところで、様子がおかしい事に気がつく

「…迷った?」

あんなにも大きい建物が見えないという事は、自分でも気づかない内に、相当な距離を歩いてしまったのだろう
盛大にため息をついて、足に力を込める
思いきり地面を蹴り上げると垂直に空を舞う自分の体
建物の屋上へと着地する衝撃でたこ焼きが落ちそうになったので慌てて体勢を整えた

瞬間

「誰です?」
「え?」

目の前で自分を見据える少年
メフィストには及ばないものの、なかなか奇抜なファッションセンスだ、そう思うのと同時に少年が再び口を開く

「同族ですか」
「………貴方悪魔?」
「聞いてるのは僕です」

少年の足が一歩こちらに向いた

身体中の警報が鳴るのが分かった
言い様のない危機感に冷や汗が背中を伝う

「……知り合いには悪魔、だって言われたわ」
「ふうん」
「…貴方は?」
「何を持ってるんです?」
「え?ッ!」

油断した
気がつけばたこ焼きを持っていた腕を捕まれていた
しかしそれだけならまだ良かったのだが、この少年…

「(痛い…!)」
「いい匂いがします」
「あ、の……離して…っ」
「いただきます」

クラリエの腕を掴む手とは反対の手で無造作にたこ焼きをつまむと口へと放り込んだ

「……なかなか美味しいですね」
「………いッ!」

一瞬緩んだのを見計らって脱出を試みるも、先程よりもいっそう強く握られる
あまりの力に怒鳴ってやりたい衝動に駆られるが耐える

「……耐えますね…」
「あ、なた…っ……何でこんな…!初対面の相手捕まえて、する事じゃ、ないわ…!」
「うるさいですよ」
「いっ、あぁあ゙ッ!」

まるで紙屑を握り潰すような感覚で、クシャリと右腕が潰れた
初めてではないものの、懐かしい痛みに涙が浮かぶ

握り潰した事で満足したのか少年の手が腕から離れたので慌てて距離を取る

「貴方っ、何者…!?」
「名乗る必要がどこに?」

腕を握り潰された時に落としたたこ焼きの上に少年の足が重なった
徐々に詰められる距離にどうすべきなのか、思考が回らない

切り落とされるのならまだ望みはあった
生やすだけなら簡単だ
ただ、肉体の中で粉砕されたとなると、難しい

痛みで汗が止まらない

一度切り落として生やすしかないが、断言できる、少年の目の前でそんな事をする余裕などない

「くっ…!」
「……先程のお礼に教えてあげてもいいですよ」
「………」

たこ焼きの事だろうか
名前が知りたい訳じゃない、そんな事よりも、一刻も早くこの場を離れたかった

「アマイモン」
「………」
「僕の名前です、貴方は?」
「………クラリエ…ヒルドール…」

瞬間、アマイモンと名乗った少年の目が勢いよく見開かれた

「ああ、貴方が…」
「………」

何の躊躇いもなく、一気に距離を積めるアマイモンを見つめて、様子を伺う
すぐ目の前で立ち止まると、鼻先がくっつく程に顔が寄せられ、訳が分からない
右腕に激痛が走り、目を向ければ、アマイモンの手が触れていた

「っ、」
「兄上から話は聞いています」
「あ、にうえ?」
「聞いてませんか?」
「………メ、フィスト?」

アマイモンは小さく頷くと呟いた

「思ってたより退屈な女でガッカリしました」
「ッ!」

ガブリ、といった効果音が適切だろう
思いきり唇を噛まれ、何かが肉を裂いたのが分かった

慌てて体を突き放すと口の中に入り込んできた血の味に涙が出た

「貴方は殺さないようにと言われているので我慢します」
「………」
「それじゃあ、また」

そう言ってどこかへと去っていくアマイモン

「…もう二度と会いたくないわ…」

既に唇の傷は閉じたが、握り潰された右腕だけがいつまでも鈍い痛みを発していた






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