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「ここ数日…彼女の姿を見かけませんが…」
「ああ、クラリエですか?彼女なら木精祓いの仕事で北海道にいます」
「北海道って……まさか…!」

何て無茶な事を、そう言いたげにメフィストを睨んだ雪男だったが、一つ気になる事があった

「…何でまたクラリエさんに行かせたりしたんです?」

本来日本では珍しいとされる木精
というのも日本で木精が憑依するべき木々が激減しているからなのだが、何故だか北海道地方では多く残り、広大な土地に生い茂る森は木精の恰好の的だった
森が広大で樹木が高齢なほど凶暴性を増す木精を祓うべく駆り出された祓魔師の数は数知れず、多くの祓魔師が命を落とした
任務成功の鍵を握るのは木精の宿る木々を片っ端から傷つける事にあるのだが、問題があった、森を神聖な場所とする近隣の住民が頑としてそれを良しとしない
最終的に、無闇に森に入らず、放っておけば害も少ない事が分かってからは放置されてきた、それなのに何故今ここで?

「祓魔師の資格も持たない彼女が行ったところで…」
「簡単な事ですよ」

右手を突き出し、指を立てる

「一つ、クラリエの戦闘能力は未知数、それを暴くための木精祓いです」
「………」
「二つ、クラリエ自身に、自分はどちら側の人間なのかを自覚させる為、事実彼女はどうも悪魔に対して情のようなものを抱いている気がありましたからね」
「………」
「そして三つ、クラリエの存在価値を…証明しておく必要がいずれ必ず出てきます…先手必勝ですよ、奥村先生」
「………」

ご尤ものような事を並べてはいるが、最後の理由がどうにも引っかかる
“存在価値を証明しておく必要がある”?

「フェレス卿…貴方一体何を考えて…」
「さて、そろそろ行くとしますか」
「え?」

空間から帽子を取り出すと目深に被ると、さも楽しげに呟いた

「食糧用に死体を寄越すよう言われていましてね、全く、吸血鬼を飼うのも楽じゃない」
「死体って…!フェレス卿!?」
「安心してください、死体などそう易々と用意できるわけではないのでね、様子を見に行くだけですよ」

次の瞬間にはメフィストの姿は跡形もなく消え去り、残された雪男はどこか納得のいかない表情で先程まで男が立っていた場所を食い入るように睨み続けた



数日前にクラリエと分かれた場所に立つ事数分
あまりの不自然さに首を傾げたくなった

木精の森に入ると毎度の如く聞こえてきたはずの“声”が全く聞こえない

風に合わせて揺れる木の枝すら凪いで、不気味な空気を醸し出していた

「………さて、これは…」
「やっと来た」
「…お待たせしました、というべきでしょうか?」
「森での戦闘訓練は受けてたけど、時間の感覚が薄れて駄目ね、森に入って何日経った?」
「5日です」
「そう…」

背中に回してあったライフルを地面へと放り投げ、言い捨てる

「今度からスコープの付いてない物を用意して、一々取り外すのに苦労したわ」
「それでは見えないでしょう」
「じゃあ貴方、眼鏡は必要ありませんって言われているのに、わざわざ度の入った眼鏡をつける?」
「……参りましたね」
「それからコレとコレ頂戴」
「それが報酬で宜しいんですか?」
「ええ」

女神を殺るのは気が乗らない、報酬がなければ割りに合わない、と言っていた割りに、その報酬がまさか拳銃2丁だなどと、何の冗談だろうか

「全く理解に苦しみますね」
「何がよ、失礼ね、それよりも全員殺してしまったのだけれど…」

問題はないか、そう尋ねた時の顔があまりにもスッキリとしたものだったので思わず笑ってしまった

お気に召さなかったのか、足を踏まれそうになったので寸での所で避けてやる
不満げな顔がますます笑えた






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