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不可思議な国のアリス
不可思議な国のアリスT



ある日、森に囲まれた小さな丘の木の下に二人の少女がいました。

一人はふわふわな金色の髪をして、それに似合う真っ白なドレスを着ていました。そして、その木にもたれながら本をもう一人に読み聞かせていました。
もう一人は少しハネのある黒色の髪をして、それに似合うのか?と疑問に思うような、赤と黒を基調としたゴシックロリータなドレスを着ていました。そして、その木の枝のところに座り、足をぶらつかせていました。

強い風でも吹いたのか、ざわざわと葉のこすれる音が大きくなりました。金色の髪の少女がそのざわめきに負けじと声を大きくしました。

「トリカブト:有名な有毒植物である。主な毒成分はアルカロイドの一種、アコニチンであり、全草、特に根に含まれる。食べると嘔吐や下痢・呼吸困難などから死に至ることもある。経皮吸収・経粘膜吸収され、経口から摂取後数十分で死亡する即効性がある。解毒剤はない。トリカブトによる死因は……って聞いてるの?」

木の上に座っている黒髪の少女に眉をつりあげた顔を向けました。黒髪の少女はあきれたようにため息をし、その少女を見下ろしました。

「聞いてるって。でもさぁ、また怒られるよぉ?妾の子と一緒にいるってバレたら。それにその本、姉さんの趣味過ぎて面白くないよ」

「いいじゃない、別に。子供をほいほい作った父様がいけないんだから、私達にその責任はないわ」

姉さんと呼ばれた金色の髪の少女は自信ありげに何か凄いことをさらりと言いました。そして、さらに声を大きくして言いました。

「それに、妾の子だからこういう本を読み聞かせてあげてるのよ、いつ何が起こるかわからないから。…私も例外ではないけれど。もし、食事にトリカブトが入っていた!ってなった時のために…」

「今さっき、トリカブトに解毒剤はないって言ってなかった?」

妹の思わぬツッコミに眼をぱちくりとさせました。
森からの風がそよそよと二人の間に流れていきました。遠くから鳥の囀りが聞こえます。

「…とにかく、下におりてきなさい。しっかり聞いてるようだけど、姿勢が悪いわ。ほら、早く!」

地面をぽんぽんとたたいて催促する姉の姿はとても可愛らしいものでした。それを見てまた軽くため息をして、そろそろと木からおりてきました。

「…悪趣味でなかったら姉さんに貰い手が来るのになぁ…」

「あら、何か言ったかしら?じゃあ読むわよ」

そして再び、妹のための毒薬講座が始まりました。その声はまるで子守唄のように森に響きました。



それでも、やはりつまらないものはつまらないので、姉からは見えない木の後ろで違う内容の本を片手に、寝っ転がりました。

『何か面白い事起きないかなぁ』

毎日がほとんど同じことの繰り返しで、姉さんの言うような毒物混入事件なんて起きそうもないくらいに家は案外平和で、食事も衣服もちゃんと用意されてて…
幸せでないことはないが、何か足りなかった。何かつまらなかった。良い暮らしをさせてもらっていると分かっても、どこまでも願いが溢れてくる。

『…もっと面白い事起きないかなぁ…』

黒髪の少女が、ぼーっと遠くを見ていたら、何か白いものが目の隅で動きました。不思議に思い、よく目を凝らして見てみました。森の茂みから何かが来るようです。

『なんだ?執事さん?でも、執事は黒のはず。じゃあ動物?』

草のこすれる音が近くなってきました。すぐそこまで来ているようです。黒髪の少女は息を殺してそこをじっと見つめました。

『さぁ、人が出るか動物が出るか…』

そして、茂みの中から出てきたのは――――兎の耳でした。

『なんだ、兎か』

と思いきや、


「あー時間に遅れる!女王の寝顔が見られない!!」

白いウサギの耳を生やした青年がで出てきました。


『人でも動物でもなかったー!!』

今まで体験した事のない衝撃が頭を貫きました。

ウサギ耳の青年は、少女達に気付かぬまま目の前を小走りで通っていきました。
その時の黒髪の少女の頭はパンク寸前でした。

『え?え!?ちょっと待て、この時代にウサ耳付けた男が森をふらつく事があっていいのか!?しかもここは私の家の敷地内だから、不法侵入!?っていうかアレは人であると判断していいのか!?そういえば女王様って単語が聞こえた気がしたけど、まさかアッチの店がここら辺にあるって言う事なのか?いやいやいや、そんな事聞いたことがない。そもそも、男がウサ耳付けてるの初めて見た!動物の耳を付けるのは可愛い女の子限定じゃない!?すごく新感覚なんですけど!!…まぁ落ち着け自分、何にせよ分かった事が一つだけある…』

ここまでの思考をたった3秒でこなし、出された結論が、

『奴は変質者だ!!』

でした。

ウサギ耳の男の背を見つめ、そして、未だに音読をしている姉の、自分とは反対にいて見えぬ背を見ました。黒髪の少女は胸に手をあて、心に誓いました。

『姉さん、すみません。私はここを治める者の娘として、この変質者を見逃すわけには参りません。奴を捕まえたあかつきには、その首を献上いたしましょう』

そして黒髪の少女はウサギ耳の変質者を追いかけていきました。自分がいなくなった事にも気付かず、姉はいない自分のために読み聞かせをしていました。その声が聞こえながらも、後ろを振り向く事はありませんでした。もう会えなくなるかもしれない、それでも行かなければなりませんでした。
なぜなら、


『姉さんの話、長いんだもん!目の前に面白い事があれば喰い付くに決まってんじゃん!!』

そして満面の笑みで走りながら言いました。

「私はここを治める者の娘の前に、暇を持て余している一人の少女なのよ!」




こうして、この少女の不可思議な冒険が始まるのでした。




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