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由紀が任務を終えアジトに戻って来た時、廊下の片隅に人の話声が聞こえた。
その小さな声は辺りを憚っているのが丸判りで、由紀は気配を消してこっそりと盗み聞いた。
「いいぢゃん、王子と付き合わない?」
「お戯れを…ベルフェゴール様」
「(はぁ!?ベル???)」
思わぬ言葉と相手に由紀は驚きで声を上げそうになる。
辛うじて己の口を押さえた由紀は、バクバクいう心臓を落ち着かせながら覗き見ようとゆっくりと動いた。
廊下の隅で壁に背を預けている女と、その壁に片手を付いて女に迫っている金髪の男。
その無造作に跳ねた金髪の上に、幾つまでつけるつもりだか分からないティアラが乗っていた。
目をこらして見てみるとニヤリと口角を上げているベルフェゴールに対して、使用人であろう女も満更ではない様子。
ただ男の気を更に惹きたいが為に躊躇ってるフリをしてるにすぎない。
その、ベルフェゴールの片手が女の腰に回った途端、由紀は全速力で踵を返した。
「(なによなによおぉぉぉーーー!ベルのぶぁかぁぁぁーーー!)」
この言葉が口から出なかっただけでも理性が残っていたのか、それともヴァリアー幹部としての無意識のクセなのか―――兎に角由紀はある方向へと向かって走っていった。
春の終わりは…
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