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02

「名前ちゃん、これお願い出来るかな」

「はい、いいですよ。そこにある物と一緒に運びますね」

名前と呼ばれた女性は頼まれた1mほどの筒を三本と、隣にあった書類の束を抱えて部屋を出る。

嫌な顔ひとつしない彼女に、頼んだ男と隣で作業していた男が笑みを浮かべた。

「名前ちゃんは良く働くな。気さくだし本当に良い子だ」

「ああ、あれでうちのボスの伝達係だなんて思えないな。前の男は横柄だったからなー」

「その点彼女は存在に華があるし、結構若いヤツラは結構彼女に惚れてるのも多いらしいしな」

「まー無理だろうな。だって彼女、ボスが外部から引き抜いてきた人間だろ?」

「そうだっけ?……そういや名前ちゃんのファミリーネーム知らないな、俺」

「俺もだ。ま、別にそんなの関係ないけどさ。彼女が息子の嫁に来てくれたらいいのに」

「本当だな(笑)」

当の本人はそんな噂をされているとは露にも思わなかった。































「失礼します」

ノックと共にボスの執務室の扉を開けた名前は、いつものように書類の束を分類した後デスクに置いて周囲を見回した。

「あれ?白蘭様がいない」

今の時間は執務室で書類の整理なのに、と独りごちた名前は首を傾げた。

いつもならその執務室のソファでマシュマロを食べているボスこと白蘭の姿が見えなかった。

大空を独り占めしたようなガラス張りの執務室は、彼がいないだけで部屋自体も大きく感じ名前には落ち着けない。





と、机のパソコンがある曲を鳴らした。

その曲が流れた時は彼から通信が入っているからと白蘭に云われていた名前は慌ててキーを押す。

「すみません、入江様」

少し慌てた様子でデスクトップに現れた入江に謝る名前に、彼は苦笑を漏らした。

「大丈夫だよ、そんなに慌てなくても。……その様子じゃ白蘭さんはいないんだね」

溜め息と共に呟いた声に名前はまた慌て出す。

「あ、あの、別に、その、あの、いま白蘭様は、その…」

「ああ、いいよ。別に怒ってる訳じゃないから。あの人の放浪癖は今更だ」

入江らしい気遣いに名前は嬉しくなる。

彼は初めて会った時からまるで兄のような気遣いをしてくれた人だ。

ショックな出来事の後だっただけに余計に優しさが身に滲みたことを今でも憶えている。





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