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破棄すべき仮初めの楽園



漸く、道は定まる。
それは祈りにも、誓いにも似た想いなのかもしれない。
行長は声も無く笑う、嗤う。
今まで拘束され、もがき苦しんだ日々との離別に、胸が高鳴る。
一種の“狂喜”、否、“狂気”とも取れるそれを少なからず感じていた。


「裏切るのか、秀吉様を」


ふと問いかけられた声に別段驚いた様子も無く、淡々と言葉を返す。


「違う、裏切りとは違うんよ虎」
「何が違う?」


秀吉は、曾ては庇護していた信仰も、彼等の持つ圧倒的な力を自ら見て、恐怖したと云う。
突然の態度の豹変ぶりに周りは困惑した。
信仰を貫く者、棄てる者。
今や天下の頂に座する主への忠誠心が見定められる時。


「弥九郎、お前は信仰を棄てたと言った。だが」


突然首元を掴まれ、背後の壁に叩き付ける様に行長を押し付ける。
だがやられた当の本人は、一瞬顔を歪めた以外、冷ややかな瞳を清正に向けた。
静寂が流れる中、微かに金属がぶつかる音が耳に届く。
それは、行長が隠し付けていたクルスの首飾り。


「これを、裏切りとは言わないのか?」

観念した様に、嘲笑を含めた笑みを溢す。
相変わらず、曲がった事が嫌いで、主を絶対とする清正。
時折、その性格が苛立ちの原因となり、だが羨望にも似た想いを浮かばせる。


「なぁ虎。秀吉様は間違ってると思わへんか?」
「何を云う。秀吉様に間違いなど無い」


躊躇いもなく即答するその姿に淀みなど見受けられず、自分とは全く正反対なのだと改めて確信をする。


「俺はなぁ、秀吉様はやり過ぎたと思うねん。きっと豊臣家は永くは持たん」


今のままでは、破滅を誘うと予感がそう告げる。
強ち的を外しているとも思えない。
そうぼやくと、清正は怒りを露にしそうな勢いで行長を睨み付ける。


「信じる、信じないは虎の勝手な事やし、俺も別に押し付ける気はないで」


先程まで浮かべていた冷ややかな瞳から、穏やかな笑みで清正に語り掛ける。


「危うい路を通る時は、漠然としたものじゃない、確かなものが欲しいんや。迷いなんて命取りになるしな。その確かなものが俺の場合、『此れ』だったって云うだけの話や」


此れと例えた胸元に掛かるクルスを優しく、愛しいものを触る様に包み込む。


「此れは裏切りやない、秀吉様を信じる為の誓いや」






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オチ意味不…orz
兎に角バテレン追放令辺りで清行っぽいのが書きたかったのだよ(吐血)

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あきゅろす。
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