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祈り尽きぬ世界へ問い掛け



戦いたく無い。
何度同じ願いを呟いただろう。
しかし、誰にも聞き入れられる事の無い祈りは流れ、また同じ血潮が流れた人間を、この両腕で容易く命を奪う。
戦が去った後に、他人の血に因って染まる手の平を呆然と見つめる。


(気持ち悪い?怖い?哀しい?)


己の中に渦巻く感情に当てはまる言葉を探す。
しかし何れも、微かに的を外している気がして釈然としない。


「いつまでそうして居るつもりだ」


一人で思考の海に浮かんでいると、背後から聴き慣れた声が掛かる。
振り返らずも、声の主は分かっている為かそのまま気の無い返事をした。


「お虎には関係ないやろー」


その言葉に苛立ちを覚えたのか、清正は小さく舌打ちをする。
ふぅと一息、溜め息を吐くと行長はやっと後ろを振り返る。
清正の姿もまた紅い返り血を浴び、汚れていた。


「今日も派手にやったんね」
「臆病弥九郎と一緒するな」
「………それもそうやね」


珍しく反発される事も無く、すんなり返され清正は一瞬目を見開いた。
その様子を見て、小さく笑う。


「なぁ、虎。俺な未だに戦が怖いねん。俺と同じ、血潮が通った、息をした人間の命をこの手で奪うのがどうしようも無く怖いねん」


自嘲気味な口調で本音を語る。
それは“武士”と言う己の立場からすれば恥ずべき言葉であると思う。
その反面、清正にならば全てを話たとしても良いだろうと言う不確かな感情が自然に零れさせたものであった。


「臆病弥九郎、“武士”と言う誇りと言うものが無いのか」
「………そうかもしれんなぁ」


否定もしない行長に清正は怒りよりも深い溜め息を吐き出す。


「お前が考えてる事なんて俺は知らねぇ。だが、仮にもお前は“武士”と言うくくりに居る。だったら迷ってる場合じゃねぇ、戦う事が今のお前のやるべき事じゃないのか」


思いもよらない言葉に、行長は思わず唖然とするが、先程までに渦巻いていた悩みは霧散する。
答えが見つかった訳では無いけれど。


「たまには良い事言うやん」
「うるさい馬鹿弥九郎」
「馬鹿ってつけんなやあほ虎」
「誰があほだ」


賑やかに何時も通りの口喧嘩でその場を去る二人。
何時の日か、悩んだこの問いの答えが見つかる事をひっそりと願いながら。





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