虚空に囚われたのは希望(行長) 身体中に走る痛み。 しかし、その痛みを堪えながらも行長は走り続ける。 (何で逃げてるんやろ) 天下分け目の関ヶ原の戦い。 味方の西軍は、小早川の裏切りから堰を切ったかの様に寝返りが続出。 優勢だった西軍はあっという間に形勢は逆転され、味方は壊滅状態。 ふと力が抜け、側にある木に寄りかかり、僅かな休息をとる。 (さきっちゃんは?家臣達は?) 行長の中に様々な想いが駆け巡る。 負けず嫌いな三成はきっと未だ諦める事をしないだろう。 まるで子供の悪戯の様な笑みを浮かべる。 共に戦ってくれた家臣達。 きっと生き残った者達は己の義を貫き通してくれるだろうと漠然とした確信があった。 (俺は…もう…) 生き残る意志は毛頭なかった。 しかし、行長は切支丹の為、自害する事は許されない。 そんな事を考えながらも、脳裏には一人の面影が浮かんでいた。 「…清…」 人知れず、その名を呟く。 いつも犬猿の仲となっていた宿敵。 しかし、絶対の信頼を置いている事もまた事実。 (もし宇土が奪われるんやったら、きっと清が行ってくれる) 清正なら許せる。 清正だったら任せられる。 理由も解らずにそう思う。 「頼むで…」 誰に言う訳でも無く、行長は虚空に呟いた。 [戻る] |