[通常モード] [URL送信]
雨降り日和




「あちゃぁ…」


行長は天を見上げてから頭を垂れさせる。
暗灰色に覆われた空からは冷たい銀の粒が落ちて来た。
最初は弱く、だが暫くするとどしゃ降りとも言える程に雨足は強まっている。
今出てきた店の軒下で取り敢えず雨宿りをする事を決め、壁に寄りかかる。


「やっぱり傘持ってくるべきやったかなぁ」


そう言っても後の祭り。
弱まる様子が無い雨空を軽く睨む。
特に急ぎの用事が有る訳では無いが、やはり早く帰りたいと思ってしまう事も事実。
どないしよう。
走って雨に濡れて帰るのは構わないのだが、色々面倒な事が起こりそうな予感。
特におねね様辺りが。


「うーんほんまどないしよう」


眉間に皺を寄せながら考え事をしていると、向かい側から見知った顔を視界が捉えた。
同じ小姓の加藤清正だ。


「弥九郎、こんな所で何してる」
「於虎…お前こそ何で此処にいるん?」
「別に…たまたま通り掛かっただけだ」
「…ほんまかいな」


ぶっきらぼうに返事を返す清正。
たまたまと言いながら此処は彼が利用する様な店は無いのだが。


「もしかして迎えにきたん?」
「たまたま通り掛かっただけだ」
「正直に言うたらええやないか」
「だから、たまたまだと言っているだろうっ!」


繰り返される質問に痺れを切らし、清正は声を立てる。
その様子で、やはり自分を迎えに来てたと言う事を理解する。
そんなに隠す事無いやろ。
自然に笑みが溢れ、その笑みを捉え清正は眉をしかめる。


「…何笑ってる」
「いやぁ?於虎ってほんまに嘘下手やなぁと思って」
「何だと?」
「まぁまぁ怒らんといてな」
「……ふん、早く帰るぞ」


少し歩き始めた清正の背を認め、行長は少し慌ててその傘の中に飛び込む。


(素直じゃ無い奴)


しかしその言葉を清正には伝えず、そのまま帰途につく。
二人は何も語らない。
しかし無言な中でも、何処か幸せを感じるのはきっと気のせいでは無いだろう。





[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!