託された希望は誰が為(土方+市村)
最後の戦いが近づいている。
誰もが緊迫した空気を纏い、重々しい雰囲気が続く。
そんな中で突然の土方からの呼び出し。
「お呼びですか土方さん」
「市村か」
何事かと想い慌てて向かって来たのだが、土方の様子は大して急ぐ様子も無く、二人の間には静寂が流れる。
此方から問い掛けをしても良いのかと考えていると、突然土方が口を開く。
「君に頼みたい事がある」
そう言い手を差し出す。
その手の平には小さな包み紙が乗せられていた。
「此れは…?」
「中身は俺の写真と髪だ」
その一言に抱えていた疑問が更に増す。
その様子を捉えてか、言い聞かせる様にゆっくりと言葉を重ねた。
「此れを、日野の家族の元へ届けて欲しい」
「え…」
土方のその一言に思わず絶句してしまう。
小姓として仕え、尊敬し慕った相手に告げられたそれは、ぐさりと心に突き刺さる様であった。
「……嫌です」
「市村」
「嫌です、絶対にっ、僕も侍です。此処で、土方さんの傍で、最期まで戦いますっ…!!」
悲痛な叫びが室内に木霊する。
しかし土方は首を横に振った。
「駄目だ、これは命令だ。拒絶する事は許さない」
「では切り捨てて下さい。最期まで戦えないのらなら悔いはありません」
「市村っ」
名を呼ぶ声は、聞き慣れた怒号する声である。
不意に涙が零れ始め、必死に堪えようとも溢れるそれを止める事は叶わない。
「何故ですか、何故僕なのですか…!」
最後まで、最期まで、この人の傍にと誓いを立てていた。
その誓いが今音を立てて崩れて行く様に、哀しみ、憤りが入り雑じる。
「市村」
先程の怒号とは違い、優しい響きで名前を呼ぶ。
その表情も柔らかな笑みが宿っていた。
「お前だから頼むんだ、お前しか此れを頼む事が出来ないと思ったから」
「土方さん…」
「此れを届け、俺達“新撰組”の生き様を見届けてくれ。これがお前に与える最後の命令だ」
“新撰組”と云う言葉にはっと息を飲む。
「……土方さんは、最期まで武士であると、“新撰組”の副長で在り続けますか」
「あぁ、当たり前だ。勇さんと俺達が創り上げたんだこの場所を……そう簡単に手放すかよ」
最後の言葉は小さな呟きとなっていたが、市村の耳にはしっかりと届いていた。
そして溢れ出た涙を拭い、土方が託そうとした包みを受け取る。
「…必ず届けます」
「あぁ、頼んだぞ市村」
これが永久の別れになる事を悟っていた。
だが二人はもう振り向かない。
そして託し、託された希望は未来に向かって進み始めた…――。
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