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泡沫の微睡みに浮かぶ(斉藤+土方)


久々の非番。
暖かい日差しが差し込む縁側に座り、ぼんやりとした時間が流れる中で、斉藤一は過去の記憶を辿る様に思考を巡らす。


(馴れ合う事など在りはしない)


それは無意識のうちに己に課した指命の様にも思える言葉。
半ば刺客扱いでこの【新撰組】と云う軍団の一員となった。
元々、他人と関わる事が好きでは無い。
群がる人々の心理が分からず、自ら孤独を選んでいる彼だが、任務となれば私情は切り捨て、命令されるままに動く。
まるで狗の様だと誰かが揶揄した気がした。


「否定はしないけれど」


ぽつりと呟いた言葉は、誰にも聞き取られる事無く空に消える。
最初は全く持って興味が無かった。
新撰組にも、隊士達も、何もかも。
ただやるべき事をこなすだけだと思っていたが、彼等と過ごして行く中で気持ちに変化が起きた事も否定出来ない。


「斉藤、こんな所で珍しいな」
「土方さん」


突然の声に軽く驚きつつ、表面上冷静に振り向くと、今や、隊内では鬼の副長と畏怖の対象となっている土方の姿を捉えた。


「考え事か」
「いえ、だだぼーとしてただけです」
「ほう、斉藤がぼんやりしているだけとは、更に珍しい」


冷やかす様に、悪戯めいた言葉を掛ける土方に苦笑混じりに言葉を返す。


「私だって、流石に何時でも頭使ってる訳では無いですよ」
「そりゃそうだな」


悪かったと詫びる彼の顔は、皆が恐る鬼の副長と云う姿は見えない。
何時でもそう笑っていれば良いのにと思うが、それの言葉は心に閉まって置く。
土方の勁い決意に水を差す様なものである事を知っているから。


「俺の顔に何か付いているか?」
「いえ、別に」


口数が少ないのは何時もの事であるからあまり気はしないが、視線が向けられている事が気になったらしい。
斉藤は口元にうっすらと笑みを浮かる。


「私、新撰組に出会えて良かったと思います」


脈絡も無くそんな言葉を呟いたせいか、土方は少しの間目を見開いたが、直ぐに普段の静かな表情に戻る。
そして、優しい光が灯る様な笑みを浮かべ土方はゆっくりと頷く。


(もう少し、この空気に染まってしまいたい)


斉藤は人知れずそう願った。




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