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脆き絆の境界線(藤堂+沖田)



(いつから、)


こんなにも絆は脆かったのだろうか。
否、それともそんなもの、初めから無かったのだろうか。
変わってしまったのは己か、それとも仲間か。
疑問ばかりが泡の様に溢れ、ぼんやりと問いを繰り返す。


「平助」


何時もの飄々とした笑みを浮かべ近寄って来る総司の姿を横目に捉えながら、特に反応せず、先程と同じく庭を眺める。
そんな平助の姿を気にする事無く、当然の様に隣に座り込む。
二人の間に流れる沈黙。
それを破ったのは総司の方であった。


「ねぇ、平助。僕を恨んでる?」


それとも、土方さんを?
先程と寸分違わない笑みを浮かべ、純粋な子供が疑問をぶつける様な声音で問い掛ける。
そんな言葉にも、平助は無感情を装っていた。


「………別に」


先日に、平助が慕っていた山南敬助が脱走を図り、隊規違反として切腹を行った。
命じたのは土方、そして介錯を行ったのは平助の隣に座る総司自身であった。


「誰かを恨んだ所で時間が戻る訳でも無し…」


でも、と言葉を続け様とするが、平助の唇は静止した。
表情には出さないが、心の中では様々な葛藤が繰り返されているのだ。
それを知ってか、知らずか、総司は再び口を開く。


「平助は優しいね」
「何処が?」
「人の痛みも自分の痛みの様に受け止める姿勢とかさ」


僕には無理だなぁ、と小さく笑う。
総司は自他共に認める“天才”と言うくくりに属している。
天才とは厄介なもので、『何となく』と云う感覚で物事を軽々と行なってしまう。
誰も理解出来ない領域で、誰にも届かない場所に知らないうちに立っている。
それが当たり前と云う感覚が根付いている性か、逆に物事に無頓着と云う性格に構成された、否、構成されてしまった。
例え、曾ての仲間であろうと同じ事である。
それを理解してる平助だが、苛立ちが燻っている事実を否定出来ない。


「皆、変わってしまったのか。近藤さんも、土方さんも、総司、お前自身も…!」


哀しみ、苦しみ、憎しみ、戸惑い。
様々な感情が入り交じり、先程までの静寂を切り裂く様に叫ぶ。


(どうして、何処から途を間違えた?あの平穏な日々は幻だったのか?)


声無き声が叫ぶ。心の慟哭は、鳴り止まない。
総司は否定も肯定もせずに、ただ見つめる。
その瞳の奥は深い闇に包まれ、その闇に吸い込まれてしまいそうだ。そして、其処にどれ程の時間が流れただろうか。
たった数秒が、永い時を刻んでいる様な感覚に陥る。
二人はただ其処に居た。
波立つ水が静寂を取り戻す様に、音が消えて行くようだった。


「ねぇ総司、僕は伊東さんに付いて行くよ」


先程までの迷いを宿していた瞳は、勁い光を宿し、平助が向ける、その視線は虚空の先にある途を見詰めている気がした。
誰にも折る事が出来ない、彼の決意。
止める気も始めから持ち合わせていない総司はただ静かに頷いた。


(一番変わったのはきっと平助自身)


それに気付かないのは、彼自身だけ。
そして、繋がっていた“絆”と云う糸は音も無く解れ始めて行くのを、既に誰も止められ無かった。

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