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追憶に唄う鎮魂謳が響く(沖田)



込み上げてくるのは、喉を焼き付く様な血色の霧。
誰にも気付かせ無い様に、誰にも悟らせない様にと物陰に隠れる。
しかし、もうそれは隠せない。
肺に入り込んだ毒は、刻々と己の命を削っている。
そんな事は、とっくに気づいている。
だが、何れ訪れる永遠の眠りに就く事に恐怖など抱いていない。
そんな事より更に恐怖を抱く事がある。


「私は、置いて行かれるのか」


痩せ細った四肢。
布団に伏せ、前の様に自由に動き廻る事すら儘為らない。
かつて師と、兄と慕った、否、今でも慕っているあの人達に置いて行かれる。
時折不安に思う。
刀が振るえ無い沖田総司など、あの中では不要とされるのでは…と。
ふと外に視線を向ける。
見舞いに来た土方さんが、天気が良いからと開けて行ったのだ。
細かな所に気を配ってくれる所が、流石。と内心感心し、沖田は微笑する。
そんな沖田の耳に、遠くから鼓膜に響く音を捉える。


チリーン…―。


(鈴の…音…?)


力の入らない躯をやっとの思いで起き上がらせ、縁側に出る。


「……何処から?」


妙にその音が気になる。
辺りを見回すと、少し離れた塀の近くに一匹の猫が居た。
漆黒の毛並を持つ黒猫。
首元には金に輝く鈴が一つ付いている。
その猫は真っ直ぐに沖田を射抜く様に見つめる。
何故かその猫から目が逸らせない。


(もしかして、天からの使者か)


唐突によぎった想像。
しかし、間違ってもいない様な気がした。


「まだ、待ってくれ」


あともう少しで良いから。
近藤さんや土方さん達がずっと叶えたかった夢が現実となったんだ。
最期まで見届けると約束したんだ。
だから。


「頼む…、僕にもう少しだけ時間を頂戴」


沖田の瞳には誰にも見せた事の無い涙が流れていた。
その雫が滴り堕ちるのを、黒猫は淡々と見つめ、やがて姿をふつりと消す。


(何処までも付いて行きたい、何時までも共に生きていたい)



所詮叶わない夢だとしても、沖田は強く強く望む…――。





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あきゅろす。
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