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NOVEL SHORT
抵抗しない何よりの理由
[臨也×ヨシヨシ/企画提出]


暗躍者だ。

悪魔よりも天使に似た狡猾な美貌で、甘美な誘惑を囁く。鴉濡れ羽色の髪、瞳は葡萄酒の深み。
預言者の名前を持つ男は、少年を煌びやかな闇へ誘った。















「キルシュヴァッサーって知ってるかい?」

上質なソファーに体を預けて長い脚を組んだ臨也は、今し方帰宅したばかりの吉宗に唐突に問いかけた。

「お酒ですか」
「へぇ。君はそんなことも知ってるの?未成年なのに、いけない子だね」

何から得た知識だったか、ドイツ語のその名前だけ記憶している。
少年が正答したことを嬉しそうに笑って、機嫌よく上擦った声で感心した。吉宗の意外な知識を臨也は何より喜ぶ。

「吉宗」

美しい顔立ちに妖しげな微笑みを乗せ、手招きをするでもなく少年に手を伸ばした。上向きの手のひら、長い指に指輪が光る。

「おいで」

飼い猫を呼ぶ仕草に違いなかった。
賢く従順な少年を自らの所有物にしたときから、この所作は変わらない。





『目の前を、綺麗な蝶々が飛んでいたら、君も捕まえたくなるだろう?』

臨也流の口説き文句。絡めとるように囁かれた言葉は魔性の響きを宿す。
蝶と例えられた自分に、臨也をそれほどまで惹きつける魅力があるとは思えない。しかし、こちらを覗き込む瞳は魂まで暴きそうなほど、熱を帯びている。

『籠に入れて愛でたくならないかい?』

危うい言葉ですら妖しく揺らめく。
ひらりひらりと泳ぐ蝶。臨也の方がよっぽど蝶のように。
飛ぶほどに、媚薬の鱗粉を撒き散らす。吉宗は、呼吸するほど鱗粉を吸い込んで。
肺から侵されていく。
輪郭をたどる指。唇に触れる吐息。

『ねぇ?おいで……』

籠なんて無くても、僕はもう……





呼吸を苛む蒸留酒独特の強い香り。
躊躇して浅くなる息を、促すように唇は重なる。

「あ……」

薄い唇が触れるたび、透明な雫が拭われた。濡れているためリップノイズが強く響く。
臨也の膝を跨ぐ形で座らされた吉宗は、腰に腕を回されて身じろぎもできない。ぴたりと寄り添う姿勢を取らされるのが恥ずかしく、黒いシャツの胸を押し返すように当てた手のひらが余計に羞恥を煽った。

「そんな声出して……誘ってるの?」

自らの唇に移った名残を舐めとりながら、切れ長の目を細めて笑う。
サクランボの蒸留酒――キルシュヴァッサーが注がれたグラスに指を浸し、その指でリップクリームを塗り付けるように吉宗の唇をなぞる。
40度の酒を未成年に差し出す背徳感が、何より臨也を楽しませる。愉悦が滲む表情はうっすらと上気し、酔い痴れるようにキスをした。

「凄いきつい酒だから、飲まなくても中てられるだろ?」

胸の底に紫色の空気が溜まっている気がする。息苦しい。体温が上がる。
吉宗の気怠げな溜め息に煽られたように、狡い唇が噛みつく。その息すら飲み尽くすように。

「い、臨也さん……!」
「ほら、本気で抵抗しな」

右手と唇に翻弄されていると、今度は左手が腰から背中までを撫で上げた。ぞくぞくと走り抜けた痺れに上半身を反らす。
切羽詰まった声無き嬌声に、吉宗の見えないところで臨也は獰猛な笑みを浮かべた。
成長期の最中、少年らしい華奢な体の線を強く抱き寄せながら、テーブルのグラスに手を伸ばす。指輪が掠った高い音。

「悪い大人に、翅を貫かれる前に」

かたん。倒れたグラス。
溢れたフレーバーは花の蜜より芳しい。

(……"抵抗"?)










そんなことできない。
……"させない"くせに。










「臨也さんに貫かれるなら」

籠なんて無くても、僕はもう貴方に囚われたまま。
逃げ出す気の無い蝶に、男は餌の蜜を与える。全て思いのまま操作された物語を共に興じるために。

「……殺し文句をありがとう」

理由など、貴方に掌握されたまま。





fin.










always lover』提出。
裏ギリギリのアウトコースに投げたら、「理性がパーン」描写を忘れてて強引にねじ込んでみました。管理人様に「ギリギリダメ」と言われることを想定して書いた辺り、私はドMですね(笑)
臨ヨシで可愛いのは私にはきっと無理なので、こんな感じでいかがでしょう?

2011*9*6


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