ビイドロの空 (name change) ざわざわと風が木の葉を揺らす梅雨の終わりと夏の初まりの間、暑い日差しがじりじりとコンクリートを焼くけれど、まだ蝉は鳴かない。 隣には黒子くん、二人してソーダ味のいつものアイスをかじりかじり、定番のスポットでまた各々本を読み、無言のお昼休みを過ごす。なんにも気にしない、だってこれが自然体。 あまり感情を表に出さない黒子くんは、なんというか、まあ、つまらないけれど、それは私も同じだから何も言うまい。つまりは淡白なのだ、私も彼も。それでいい、だってこれが自然体。 ふと、黒子くんの携帯が鳴る。3回ほどのバイブレーション、きっとメールだ。その画面を覗き込むような野暮な真似はしない、カコカコというボタン操作も気にしないで、私はまたひとつページをめくった。 「あ、黄瀬くんが今日また誠凛に来るみたいです。」 「え、あのモデルの?」 「はい」 「へー」 垂れる、と、重力に従おうとするアイスの溶けたしずくを、下から口ですくってやる。本には落とさないように、今読んでいるのは黒子くんの貸してくれた芥川龍之介だから尚更。尚更って、なにそれ。 と、 「あの、黄瀬くんみたいなひとには興味ないんですか?」 「え?」 思わず目が合う、な、なにそれ。そんなこと一度だって聞いたことなかったくせに。 「べ、別にないけど」 不器用に答えて、本に向き合き直る黒子くんを見送る。 (何か言いなさいよ。) 「ねえ、私が黄瀬くんみたいなひとにキャーキャー言ってたらどうする?」 こんなこと聞くなんて、夏の熱に浮かされてるんだろうか。いやいやきっとそうだ、ほら、南中高度が、ほら、ほら。 そしてまた、黒子くんは私を見つめる。まんまるの水色、ビー玉みたいに私を写している瞳のなかに吸い込まれてく。 「嫌ですけど」 静かに呟かれた言葉を疑わなかった代わりに、何度も何度も頭のなかで復唱した。嫌ですけど、嫌ですけど、嫌ですけど。 「君ならキャーキャー言わないでしょうけれど、僕は嫌ですね。君だけは。」 ぽとり、本を落として口付けてしまった。ほとんど衝動的に、突発的に。しおりを挟まないで閉じたから、読んでたページがどこだかわからなくなってしまった。まあ、もうなんでもいいや。 夏まですきになってしまいそうだ。 ---------- (ブラウザバックでお戻りください!) |