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伊作は顔を上げると長次に向き直った。

「文次郎のことだけど……先の大戦で死んだって…」

伊作は表情を変えずにそう言った。そして長次も無表情でそうかと相槌を打っただけだった。

「情報源はどこだ?」
「留三郎。いま、文次郎の子供の担任をしてるんだ」

留三郎は、学園卒業後戦忍びを経て学園の教師となっていた。彼の育てた忍が長次の勤めていた城にも何人かいた。皆、優秀な忍びたちだ。文次郎は、西国の城に入り、若くして忍組頭になった。そう、長次は聞いていた。学年の仲間では一番近くにいたが、城主仕えていた武将が対立していたので終ぞ会うことはなかった。

「文次郎のとこは東軍で、同士が手のひら返したみたいに裏切ってくなか、最後まであっちの将軍さんのために戦ったみたい。戦況が悪化して、部下を逃がすために敵の忍を全部引き受けて」
「……あいつらしいな」
「うん。噂だと忍隊5つくらい潰したんだって……守るものがあるとほんと強いね、文次郎は」

少し鼻声混じりに伊作が言う。彼は学園にいた頃も、後輩に慕われ、何だかんだ言っても仲間を守るために全力を尽くしていた。月日は、彼を残忍で冷酷な忍には変えなかったようだ。人の根本は中々変わらないということか、長次はこの乱世で彼が彼のままで死ねたことを少しだけ感謝した。
伊作の目には涙がうっすらと浮かんでいた。

「また一人、減っちゃったね」
「ああ」
「い組は優秀だから…一番長生きしそう…とか卒業の時に言ってたのに…もう二人ともいないなんて信じられないよ」

伊作は言葉につまりながら声を絞り出す。
ぽたっと雫が落ちた。
伊作の瞳からぼろぼろと涙が零れる。そして、長次の頬にもひと筋。
仙蔵はフリーの忍として名を馳せていたがはやくに重い病にかかり、最後は一人死んでいった。この学年では一番早く、旅立っていった。美人薄命とはよく言ったものだ。

忍びと言う道を選んだ者たちだ。
多くの命を奪い、血に染まった両の手を下げている。
そして、いつかは死の矛先がこちらを向く。
それが早いか遅いかの、運がいいか悪いかの差。
そんなこと十分理解しているのに、あの学び舎の仲間がまた一人いなくなったと言う事実に、思うように声も出ない。
この手が摘んできたものたちのことなんていちいち覚えていないのに、どうしてこんなに心が痛い。

二人の嗚咽が響いた。


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