HEAD
プロローグ
 声も出ない、とはこのことなのだと思う。何故だか知らないが、臨也のベッドですやすや眠る静雄が招かれざる客であることは盛大に壊れた壁からも明らかだ。
 だがまあ、そんな侵入経路は静雄にとっては一般的かもしれない。問題は忍び込んだばかりではなく、何だってあれだけ嫌う臨也のベッドなんかで眠ってしまったのかということだ。叩き出そうにも、彼に力で敵うわけがない。
 臨也は暫し呆然と静雄を見つめ、そしてそっとドアを閉めた。
 きっと疲れているのだ。ヤのつく人にせっつかれての仕事は、成果の出るまでの期間が長いほど、いくら飄々としていてもストレスが溜まる。つまりはそういうことなのだと思う。だから、そう。シャワーでも浴びてきたらきっと、この幻は跡形もなく消え失せているに違いない。
 そう思って常より熱いシャワーを入念に浴び、少しのぼせたらしい軽い眩暈を感じながらもう一度自室の扉を開く。しかしそこにあるのはさっきとまるで変わらぬ光景で、どっと疲れを覚えた。と、同時に、もはや耐え難い眠気も訪れる。
 寝込みに殺されそうになるのは勘弁願いたいが、なんだかんだいって甘い静雄のことだ、まさか無抵抗の臨也に無体は働かないだろう。彼が起きたとき不快になったとて臨也の知ったことではない、ここはそもそも臨也の部屋だ。
 ここまで常より回転の遅い頭で叩き出すと同時に臨也は静雄の隣に倒れ込み、人間の温もりなんて珍しいものをすぐ側にはっきりと感じながら、引き込まれるように眠りに落ちた。
 夢現に、彼の隣にぴったりとくっついてみると非常に心地良く、自然と呼吸が深くゆったりしたものになる。無意識に手を握った。


2019.1.28.永


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