HEAD
エピローグ
 一人落ち込む臨也の事務所の扉は、刻限通りに静雄にノックされた。一分以内に対応しないと玄関を破壊されるのがわかっているから、そんな気になれないまま素早く戸を開けてやる。
「──どうした、手前」
 対面した静雄はいつもと何も変わらなくて、それに却って動揺する。
 あんなにも感情がストレートに出やすい静雄に限って、二股や浮気をしていたなら、それを顔に出さず平然としていることなどできるのだろう、臨也でもあるまいし。そう思うと、全てが勘違いであったかのような、幸せな想像を自然にしてしまえて、続く言葉を失った。
「いや──なんでもない」
 だが、内心の乱れをごまかし抱き付いた体から、知らない匂いがしてはもう駄目だ。
 身を強ばらせた臨也を、静雄は訝しむように見下ろした。
「──シズちゃん。今日、何してたの」
「あ? 別に何もしてねえよ」
「…嘘だ、だって──」
 言い淀む臨也の首筋に、ひやりと冷たいものが触れた。反射的に身を強張らせ、静雄の手許を振り返る。
「…付き合ってんだろ、今は」
 ぶっきらぼうに呟いた静雄の手に絡まった素っ気ないくらいシンプルな銀色の鎖が絡まっていた。
 そういえば、ホテル街の片隅にアクセサリーを売る店もあったようには思う。
「えーっと…」
「──付き合ってんなら、誕生日くらい何かしろって幽が」
「…今日は、幽君と出掛けてたのかな」
「──プレゼント選びは女がうまいだろってトムさんが」
 言葉足らずすぎて、頭痛がする。それ以上に大きく安堵して、付き合おうなんて契機になった出来事の方は薄れていくのに気付いたが、もはやどうしようもない。
「つまり、今日は…?」
「──ヴァローナが、大事なものは鎖で繋げって」
「…わかった。もういい。シズちゃん」
 通じ合える気はしないが、いつの間にか何かしらのものはできていたらしい。


2018.5.4.永


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あきゅろす。
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