HEAD
斑紋(R15)
「手前は、俺が手に入るなんて本気で思ってるのか」
 煙草をふかしながら嘯いた静雄は現在素裸で臨也の事務所奥にある寝室にいたりするのだから、きっと事情を知らない者には言葉の意味が理解できないだろう。
 長年の殺し合いは、いつからか何故か肉体関係を伴うものになった。それでも、臨也は静雄と付き合ってはいないつもりだし、自分が彼のものだとも思っていない。他の者と性行為をしても罪悪感は抱かないし、それはきっと静雄も変わらないだろう。
 だが、目撃してしまったそれは非常に面白くないものだった。見られたことに気付いた静雄は臨也を一瞥してそのまま、女の肩を抱いてホテル街に消えた。そして別れたその足で臨也の事務所を訪れ、つい先程女と行為したとは思えない性急さで臨也を求め、つい流されてのってしまった。
 その後であくまでさり気なく、夕刻に行き会ったことを持ち出してみただけのことだ。
「思わないね。君だって、俺がシズちゃんだけのものになるなんて考えないだろう」
 自ら否定した言葉は胸の奥にちりりと刺さる。
 もしかしたら、臨也は。静雄が自分に執着する分だけ、彼を手に入れた気になっていたのかもしれない。
「まあ…手前は俺に惚れてるからな」
 そんな臨也を、彼の傲慢な物言いが追い討ちをかけた。不快であるのは真実故であるのだろうが、だからこそ余計に。
「君は、誰でもいいんだろう」
「手前程じゃねえよ」
 間髪入れぬ感情の伴わない反駁に下唇を緩く噛む。誰でもいい…確かに、そう言われても無理のない行為を重ねた自覚はあった。しかしそれは、誰でもいいのとは少し違う。目的のための行為と、私的なそれとの間には臨也自身も気づかぬうちに明確な壁ができていて、そして…仕事上何のメリットもなくても臨也が関係をもつのは唯一静雄だけだったのだ。
「──じゃあ、これからは違う」
「あ?」
「シズちゃんは、俺と付き合ったらいいんだ」


2018.4.8.永


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