HEAD
エピローグ
 理由などわからない。ただ、無性に。あの憎たらしいツラを今殴りつける必要を感じただけのことだ。彼以外の何であっても収まらないこの衝動は、ひとえに臨也のせいだ。こんなに苛々するのも、こんなに胸がざわめくのも、あいつのせい以外有り得ない。
 その理不尽な怒りは、道なき道を走り、彼の匂いが近付くにつれ強まり、山小屋の陰に隠れなにやら怪しげに佇む臨也の姿を目にして最高潮に達した。
「いーざーやーくーん」
 背後から潜めもしない声をかける、と彼は弾かれたように振り返った。
「ちょっ…と、なぜ君がここにいるのかな」
 肌寒い山奥で、彼の額にうっすら汗が滲む。鼻をつくその香りにぞくぞくした。
「手前こそ、なんだってこんなところにいやがる」
「──それを君に言う義理があると思う?」
 少し後じさった臨也の背が木に触れる。
「まあいいや。ここまで来られたご褒美をあげよう」
 そう笑う臨也の背後で、誰かが逃げ出す気配がした。


2017.5.4.永


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