HEAD
稟質縹渺(R18)
 幾度も体を重ねたことはある。だが、いざしようとわざわざベッドまで移動して、触れ合う前に服を脱ぐなど初めてで。いつもの、欲に飲まれた獣みたいなスタートと違い過ぎて、緊張のあまり動悸がする。
「シズちゃんも脱いでよ」
「っ…あ、ああ」
 なんとか返事をした声はガチガチに強張っていた。
 着慣れたバーテン服を開くことすらうまくいかない。ぎこちなくしか動かぬ自分の手に苛立ちすら覚える。
 と、臨也の手が静雄のそれに重ねられた。
「いざ…」
「手伝ってあげるよ」
 上半身を薄明かりに晒した彼の麗しさに息を呑む。あんなに喧嘩しているのに、痕のひとつも残っていない、絹のようなという表現の相応しい素肌。彼に上衣を開かれながら、惹き寄せられるようにその腹部に手を添える。
 軽く触れただけの掌を、肋骨が温かく受け止めた。ほんの少し力を入れるだけで粉々に砕けてしまいそうなそれは、確かに生きた温度を持っている。
 呼気が乱れた。
 か弱い生き物が今、こんなに無防備に静雄のそばにいてくれる。たとえそれが臨也であっても、いや彼だからこそ胸が打ち震える。
「手…」
 甘い声音に頷くことすらできずぎくしゃく離し、シャツの袖を腕から抜いてもらう。
 互いに上半身裸で向かい合って、冷静になることもできずどちらからともなく唇を貪りあう。いつとはなく、ベッドに乗り上げ押し倒された。
「い、ざや…」
 彼の名を呼ぶ声は、自分のものだと信じたくないくらいに甘ったるい。だが、脇腹を逆撫でされて、そんなことも気にならなくなる。
「ん…っ…」
 かつてはくすぐったいばかりであったはずの場所さえ、臨也にかかればささやかな快感を与えてくれる。むしろ彼に触れられるならばどんなものでも心地よい。街での喧嘩さえそうなのだから、ベッドの上の意図を持ったそれは言うまでもない。
 自分ばかり追いつめられている錯覚が悔しくて、いざやをズボンの上から鷲掴む。確かに芯を持ったそこを、チャック越しに圧迫する。
「…シズちゃん──」
 膝の間に割り込む体を拒む理由は、ない。
 しかし次の言葉に目が点になった。
「一人でしてるところ、見せて」


2016.3.24.永


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