HEAD
10
 同じ頃。臨也とデリックは違うルートでありながら静雄達と同じような普通でない道を通って新宿についてしまっていた。
 すっかり高くなった陽を見上げて臨也は小さく息をつき、静雄達に連絡を取るため携帯電話を取り出す。台無しのはずが、楽しくて堪らない。
「あ…」
 そのときふと零れたデリックの微かな声に臨也は何気なく彼を見やり、そうして目をむいた。
 出会いからして常識で考えられぬ‘生まれ方’をした彼だが、今度はその体が透けてその向こうの景色が見えていたのだ。徹夜明けの目が疲れているせいだろうかと数度瞬いてみても、見えるものは変わらない。
 デリックは臨也に、初めてかもしれない笑みを向けた。静雄によく似た面差しに掃かれたそれは、背筋が粟立つほどに儚げだ。
「サイケが、帰っちまったみてえだ」
 言っていることがわからない。いや、デリックもサイケも、終始一貫してわけがわからない存在ではあったが。
 ──なのに。根拠のない勘を信じるのは好きでない臨也でも、それなりに察するものがあった。
「親子ごっこはもう終わり、ってことかな」
「俺達はごっこ遊びをしていたわけじゃねえ」
 低く唸ったデリックはすぐに表情を緩ませ、コートのフードを引っ掴むように抱き付いてきた。
 薄れゆく温もりには、なんともいえぬ奇妙さがあった。
 自分より背の高い息子の唇が耳元に寄せられ、風が舞うような音が吹き込まれた。
「父さんと、幸せにな」
 弾かれたように臨也がデリックの瞳に顔を向けた、ときには彼は視認することすらさせず街に溶けた。
「──言われなくても」
 遅ればせながらようやく掠れた声を出した頃には、デリックは跡形もなく消え去っていたけれど、街がそっと微笑んだ気がした。


2014.4.24.永


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