HEAD
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 都会の朝は常人離れした感覚をもつ静雄にとって、とても騒がしい。通勤通学で遽しい人々、近隣の目覚まし時計、カラスの傍若無人な鳴き声やらで。
 そういったものが、防音の行き届いた臨也のマンションでは大半が遮断され、隣に臨也の温もりまであって。静雄が彼の家に泊まるときはいつも朝寝を楽しむのが常だった。
 だが、今日は。鼻をつく優しい香りにいつもより早く目が覚めた。
 学生の頃いつも台所から漂ってきた、朝食の匂いだ。米の炊ける香り、味噌汁の匂い。ぐう、と腹の虫が鳴いて急速に意識が浮上した。
 ゆっくりと上体を起こす。と、左右に‘子供達’が寝ているのに瞬間ぎくりとした。
 彼らがもぞもぞと動き出すと同時に昨夜の出来事を思い出し、静雄はふっと頬を緩ませる。
 ややあって軽い足音が近付いてきた。ノックもなしにドアを開けた臨也を一瞥し、静雄は口角を吊り上げる。
「珍しいな、手前がこんな朝っぱらから起きてやがるなんてよ」
「誰かのせいで寝場所がなくてね──さあ、お子さまは起きて顔を洗うんだ」
 二人して朝が弱いらしくぐずるサイケとデリックを問答無用で叩き起こし、ベッドから追い出す臨也は昨夜とは打って変わって親然としていて。なにがあったかはさっぱりわからないが、彼なりに現実を処理したことが伺い知れる。彼らが自分の息子であるとは認識しても、具体的に何をどうすればいいのか浮かばなかった静雄にとってそんな臨也は眩しくすらあった。
 美味な臨也の手料理を朝から咀嚼して静雄は、心許ない自分の財布の中身を思い返す。
 朝飯を食い終わったら一緒に出掛けようと二人を誘うと、子供なんて形容のよく似合う無邪気な喜びを表現してくれて、自然と口元が綻んだ。


2014.3.8.永


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