HEAD
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 情報屋の全力をもってしても、パソコンから人間が出て来た事例は見つからなかった。まあそれは当然だと思う。しかし、愛用しているパソコンと防犯カメラを隅々まで調べても異常も種も仕掛けも見つからないのはいただけない。
 肩を落とし自分の寝るスペースのもはや残っていないベッドの傍らに立ち、仄かな灯りに照らされた三人を見下ろす。
 サイケとデリックが実際のところなんなのかはわからない。わからないが、そっくりな寝姿を晒す三人になにやら愛おしさのようなものがこみ上げた。問答無用ともいえるその情動は父性のようでもあり、そう自覚してしまった瞬間臨也は大きくかぶりを振ってそれを否定した。
 しかし抗い難い思いから、静雄に抱き付き眠るサイケに手を伸ばす。
 ふわりと柔らかな髪を梳く、と自分のいつも使っているシャンプーと同じ香りがした。
 ──静雄と作り上げた瓦礫を美化した形容としてそんな表現を使ったことはあるけれど、本当に静雄との子供が欲しいなど考えたこともなかった。なのに、目の前に現れた自称子供の青年達は、そんな自覚とは裏腹に臨也の心を奥底から刺激する。臨也は、静雄ほど感覚に素直に従うことなどできないけれど、納得せざるを得ないような力が働いている。
「…ん…」
 サイケが瞳を開かぬまま小さく憤った。臨也はぎくりと手を引っ込める。
 温もりを覚えてしまった指先を自分の口元に近付けた。
「──仕方ないね。騙されてあげるよ」
 冷ややかに吐き捨てるつもりだった音は、予定より甘く薄闇に溶けた。


2014.2.9.永


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あきゅろす。
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