HEAD
泡沫のキセキ
 平和島静雄のような化物など、と抗った時期もあった。しかし紆余曲折を経て、時折盛大に‘子供’を残しながら互いに互いを掛け替えないと思えるようになった。歪な形であるとはわかっているが、これが自分達なりの幸せのカタチとやらなのであろう。
 街の惨状の記録映像を眺めにやにや笑っていたら、帰り支度をしていた波江が臨也を無表情に一瞥し、一言小さく吐き捨てた。
「気持ち悪いわよ」
「そう? 俺は我が子が産まれた瞬間を振り返っているだけなのに」
「隠し子がいたの? あなたみたいな男の血を引き継ぐなんて産まれた瞬間から随分な業を背負ったものね」
 あまりにも素っ気なく失礼なことを吐き捨てた波江は、じゃあさようならと返事も聞かず帰って行った。
 見送るつもりもなければ説明してやる気もない臨也は意に介さず、パソコンの画面に映る崩壊した街並みをそっと指先でなぞる。存在するはずもない拍動が伝わるようで瞳を細めた──
 瞬間。
 画面が大きく震え、自分と同じデザインだが真っ白な衣服にピンクのヘッドホンをつけた臨也そっくりの男が画面から這い出して来た。その後を追うように、真っ白なスーツにピンクのネクタイ、ピンクのヘッドホンを纏う静雄に酷似した男まで。
 情報屋なんて商売をしているのだ、大概の非日常には慣れた気でいた。
 しかしこんなにもSFちっくなことには耐性がなく唖然と固まる臨也に、自分そっくりな男は同じ顔でよくもここまでと思うほどに無邪気な笑みを向けた。
「はじめまして、パパ。僕は、サイケ」
「──は?」
 間抜けな声が零れた。机に立ったサイケの後ろでパソコンのキーボードを遠慮会釈なく踏みつけた静雄そっくりの男は、不機嫌に臨也の部屋をぐるりと見渡し低く唸る。
「──臭え」
 驚くべきか、その唇から零れた声まで静雄そのものだった。最早驚愕すら通り越して臨也はただただ呆然と固まる。
 悲しいかな、臨也にはパパになる心当たりなど有りはしない。
 性交の記憶など思い返すだに静雄とのものばかりで──不満はないけれども、パパになるはずはない。ましてやパソコンから我が子が這い出してくるはずなどないのだ。常より格段に回転の鈍い頭で行き着いて、ようやく我にかえる。そうだ、パソコンから我が子が産まれる人間などいない。そのとき。静雄の来訪を知らせるチャイムが響き渡った。


2014.2.2.永


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