HEAD
笑うなよ笑えなくなる
「いーざーやーっ!」
 あぁ──この目だ。猛獣のようなつよい瞳。
 俺の余裕ぶった笑みは、この光を浴びてやっと、腹の底から溢れ出すのだ。
 口角を上げてにんまりと。
 圧倒的身体能力の差をものともせず、君に笑いかけられるんだよ──眩しい君に対抗してね。
 ──だから。
 そんな表情をされては、困る。困るんだよ、シズちゃん──
 ぐでんぐでんに酔っ払った静雄を路地裏で見つけた。
 ぺたんと地面に座り込み、ぐにゃぐにゃの上体をなんとか起こし、正面にしゃがんだ臨也を見つめほわほわ笑う。
 この笑顔は、弟とか、あの上司とか、彼の大切な奴らのためにあるはずだろう。
 酒に飲み込まれ、誰にでも──大嫌いな俺にまで出血大サービスでばらまくようなモンじゃないだろう。
 臨也はぎゅっと唇を噛み、視線を逸らす。
 心がアルコールでぷかぷかたゆたう彼の肩を、力いっぱい突き飛ばした。
 ビルの外壁に頭を打ち付け瞬間息を止めた静雄の、瞳に光が灯る。
 俯いたまま彼は、真横に走る配管にすっと手をかけた。直後、ぴしりと線が駆ける。
 顔を上げた彼の額に浮いた青筋に、腹の底から笑いが込み上げた。


臨静萌茶様にふらっと参加させていただきました。


2013.1.19.永


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