HEAD
保護者ですから
「余計なお世話とわかっちゃいるんだがな」
 唐突に昼休みの屋上へ呼び出され、真剣に紡ぐ門田に、静雄はそっと首を傾げた。
「俺は、お前達を信用──いや、その気になればなんでもできる奴らだと思っている。普段はともかく、互いに思い合っていることも、見ていればわかる」
「何の話だ?」
 あまりに先が見えず、相手故にすぐキレるとはいかないものの静雄の蟀谷がひくひく引きつる。それを敏感に察し門田は、オールバックに固めた髪を自らぐしゃぐしゃと掻き回した。
「折原のことだ」
「──あぁ…」
 虚をつかれ一瞬引いた青筋が、ひくりと静雄の額へ浮き上がる。
 名前を聞くだけでこんなに腹立たしいのは、後にも先にもあの男だけだろう。そして、
「お前達、付き合ってるんだろう」
こういう関係になるのも、きっと生涯あいつだけだろうと静雄は確信している。
「──俺達はそんな甘っちょろい関係じゃねえよ」
 静雄は、門田の瞳を真っ直ぐ見据え彼の言葉を明確に否定した。
 折原臨也は人類総てを愛しているが、‘平和島静雄’にだけは胡散臭いそれを語らない。したいことをしたいように欲望のまま願望のまま奔放に成し遂げる折原臨也は、唇を重ねるのもセックスするのも静雄だけだ。
 付き合っている。
 なんて。
 そこら中に溢れる言葉で表現できる間柄ではない。もっと特別で、もっと脆く、そしてそれ以上に強固ななにか。静雄は自分達の関係を適切に表現する語彙を持っていなかったけれど。
「悪い奴でないとは言えねえんだが」
 静雄の形に出来ない思いをどこまで汲み取ったか、門田はやんわり苦笑した。
「お前がそんなツラするのなら、俺にはもう言うことはねえ。時間取らせて悪かったな」


─ ─ ─ ─ ─


「折原君、静雄と付き合ってるんだね」
 なんでもなさそうに唐突に吐かれた悪友の言葉に、臨也はゆっくり一度瞬いた。
「どこからそんなデマを聞いてきたんだ?」
「いやあ、見ていれば分かるよ。僕にはこれが間違いじゃない自信がある」
 にこにこ笑う新羅に臨也は小さく溜息を漏らし、口端を吊り上げた。
「──仮に君の観察の結果下した判断が正確なものであったとして、だ。だからなに、って話だろう、そんなもの」
 互いに笑みを浮かべ表面上は和やかに見つめ合う。昼下がりのどこかまったりした空間に、第三者から見れば自分達はぴったり溶け込んでいる自信があった。
「そうだね、私は君達の間柄に口を出す権利も、そんな趣味もないよ。ただ、面白いなと思ってね」
「面白い?」
 臨也は刹那眉をひそめ、すぐに笑みを貼り直す。
「俺は全く面白くないね」
「そりゃあそうだろうね。この件に関して君は蚊帳の内側にいるもの」
 臨也の、ほんの僅か瞳によぎった動揺を透かさず捉えて新羅は笑う。臨也はそっと奥歯を噛んだ。
「人間らしい青春を謳歌するのもたまにはいいと思うよ、臨也は特にね」
 しかし、楽しげに笑う悪友の瞳があまりに優しくて。憤りは形に成らず空気に溶けた。


イザシズラブ!!様に提出させていただきました。


2012.12.25.永


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