HEAD
やまぶき
 5月4日。永遠の21才なんて言葉が我ながら似合わなくなってきた日の夜明け前。帰宅した臨也が見たものは、事務所の玄関のドアの隙間、ちょうど臨也の瞳の高さに突き立てられた一枝の山吹だった。
 黄色い花弁をふるりと震わせ、ドアから抜き取る。
 情報屋なんて商売をしているのだ、犯人など分かっていた。しかし、敢えて気付かぬふりを続け早10年。毎年臨也の誕生日に決まって置いていかれる山吹片手に、臨也は事務所の扉を開けた。
 夜明け前から波江が出勤している訳もなく、臨也は手ずからモーニングコーヒーを淹れようと山吹をソファへ放り出す。黒い革張りのソファに黄色がやたら映え、知らず溜息が零れた。
 平和島静雄が。折原臨也の誕生日に、山吹をくれる。その真意など、想像するだに恐ろしい。
 やはり、あの男は危険だ。一刻も早く息の根を止める必要があると、今年もまた再認識させられる。
 面と向かえば牙を剥くことしかしない駄犬だ。その想いが臨也に向いているのなら、いくら殺意を言葉にしようとトドメを刺されることだけはないだろうが、それに救いを感じるほど臨也はおめでたくできてはいなかった。だって、男である臨也に男である静雄が…
 考えたくもない、気持ち悪い。
 毎年誕生日に花を置いていくなど反吐が出る、誉め言葉ではなく。
 と、玄関からばきりと不吉な音が響いた、そう思う間もなく犯人がリビングに踏み込んで来る。
「──シズちゃん…」
 がちゃり、と臨也の手にしたコーヒーカップが床に滑り落ち、粉々に砕けた。
 静雄は無表情にソファの黄色い花を見、臨也に視線を移した。真っ直ぐな眼差しに知らず腰が退ける。
「──10年目、だ」
「は?」
「手前の誕生日に、これをやるようになって──10年目だ」
 唖然と瞬く臨也に、静雄は薄桃色の唇を笑みの形に歪める。
「だから、なに?」
 臨也が皮肉っぽく嘲う、と静雄はソファに放り出されたままの山吹を拾い臨也に投げつけた。軽い音がして山吹の細枝が臨也の耳を掠め壁にささる。
「いい加減、答えは出ただろ?」
 横目で伺った山吹がふるりと震え、コーヒーメーカーに黄色い花弁を一枚落とした。
「差出人も知らせない贈り物に答えを求めるの、シズちゃんは」
「手前には。誰からかわかってたはずだ」
 頬が引きつる。揺らがぬ視線が痛い。
 静雄の目許だけが仄かに朱い。ごくりと唾を飲み込んだ。
「俺、は──」


ノンホモ!様に提出させていただきました。


2012.12.11.永


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