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臨イン体験(R18)
 唐突に自身が使い物にならなくなって、医者の友人は不親切で。
 致し方なく仕事そっち退けに情報網を駆使して解決策を探す。が、半日を費やしても今ひとつピンとくるものは見付からず、一時凌ぎと知りながら精力増強剤を注文し、急ぎの仕事だけ済ませた臨也はベッドに潜り込んだ。
 こんな日の一人寝は物寂しいけれど、静雄を呼ぶ気にもならない。永遠の21歳とか公言しているのに重い時の流れに頭痛を抱え、それでもうとうと微睡んだ頃。
 ノックもなく寝室の扉が開かれた。
 反射的に意識がぼんやり浮上するが、こんなことをする人物の心当たりはひとつしかなく、また殺気も感じないため覚醒には到らない。更にいうと夜を徹して静雄の相手をしてから一睡もしていない。
 臨也は夢の世界に半分浸かったまま、掛布団を捲りあげた。
「シズちゃん? おいで…」
 おずおず近づいてきた温もりが、するりとベッドに潜りこんできた。
 予想に違わぬ煙草の匂いがほんのり香る。
 今日は約束はしていないはずだけれど、そんなものは些細なことだ。
 妙に安心する彼の髪に鼻先を埋め──
 と、部屋着のズボンを引かれ、ぎくりと目が覚めた。
「シズちゃん…?」
 彼はどう思っているか知らないが、いざやの不調は今のところ全く回復の兆しは見られない。なのに、遠慮もなく下着ごと膝まで引き下ろして静雄は、ひょいといざやを摘まみ上げる。
 落とした照明のせいで表情を窺わせない静雄は呆気にとられる臨也を尻目に、無言のままいざやを二、三度上下に扱く。
 が、そんなくらいで勃ってくれるなら苦労はしていない。
 一向に反応を示さないいざやに溜息をついて、静雄がふっと顔をあげた。四つん這いに臨也に覆い被さり、低く呟く。
「今日…ずっと、考えてた」
「何を…?」
 窓から入る微かな明かりに、変に熱っぽい瞳が煌めく。
「だから、仕事に集中できなかった。お前のせいだ」
 やたらと男らしい呻きに、どくりと鼓動が跳ねる。
「勃たねぇなら、立たせりゃあいいんだよな」
 君はどこの戦国大名だ、と思う間に、荒っぽく口付けられた。
 無様にも晒されたいざやが、静雄のズボンの布地で擦られる。
 交際3年目にして攻守交代か、なんて考えが自然と過った。普段ならそんなこと許すはずもないが、自身が全く反応しないのだ。昨夜の静雄の不満気な有り様を思い返し、仕方ないかと嘆息する。
「痛くしないでよ」
「あ? …あぁ、なるべく」
 あっさりと返ってきた言葉に、予感が確信になった。
「──初めて、なんだよ、俺」
 けれど、静雄になら。こんな状況でなら処女を捧げてもいいかもしれない。
 そう思うくらいには、惚れている。
「当たり前だ」
 きっぱりとした声音に、静雄の項へ腕を回す。
 そっと目を閉じ、体の力を抜いた──が、いざやに触れた冷たい感触にぎくりと静雄の肩を押す。
「なんだよ」
「いや──ちょっと待って」
 ぎくしゃくと手を伸ばし、枕元のランプを点ける。
 柔らかな光に照らされ露になった静雄の手には、ボールペン。どこにでも売っている、定価100円にも満たないような筆記具はキャップを外され、明るくなったことで目的の場所を見つけたか、いざやの鈴口にその尖端を食い込ませた。
 咄嗟に静雄の手を抑え、そっと腰を逃がす。
「なるべく、痛くねぇようにする」
「いや、そうじゃなくて」
「これ、入れといたら、しゃんとすると思うぜ」
 そんな、いいこと思いついたぜ俺みたいな顔をされても反応に困る。
 ただ、今現在はっきりしているのは、臨也が極めた覚悟はこんなものを尿道に受け入れる類のそれではないことだけだ。
 まさか、それを入れて──やる気じゃないだろうな。
 この状況で他の目的は考えられないけれど、信じたくない。
 欲求不満にぎらついた静雄の瞳が、真剣に臨也を見据える。迷いのないその眼差しに心臓がやばい。
「ボールペンがいいなら、それ使ってあげるから、おれに入れるのはちょっと…」
「俺はお前のがいいんだよ」
 その言葉を聞いたのがこの状況でなければ感動で舞い上がりそうだが、今は違う意味で危ない。
「いや、でもね、こんなもの突っ込んで、しかも君に入れるとかしたら、本当に使い物にならなくなるからね」
「今だって使い物になんかなってねぇじゃねぇか」
 御尤も過ぎて涙が滲んできた。
 通販で頼んだ精強剤の一刻も早い到着を願いながら、静雄を納得させる言葉を探す、が。
「それに新羅が、なんか芯になるもの入れたら使えるんじゃないかって──」
 ──そうきたか。さすが腐れ縁、効果的な仕返しの方法を心得ている。
「あいつの言うことは信じちゃ駄目だよ…」
「一応医者だろ」
「そうだけど──」
 額を押さえる臨也を黙って見つめ、不意に静雄はボールペンを枕元に放り出した。
「お前、新羅に何かしたのか」
「まぁ──少しだけ…」
 静雄はがしがし金髪を掻き回し、項垂れたいざやを見下ろす。
「──勃たねぇ、な…」
「そうだね──」
 二人同時に漏らした吐息は、どっぷりと重かった。


2012.3.20.永


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