HEAD
刻みつけてあげる、君の心に(R18、モブ静描写含む)
 けばけばしく飾りたてられた安っぽい城から、男が二人、並んで出てきた。
 臨也は電柱の陰、ゆっくりと携帯をポケットに仕舞い、肩を回す。
 二言三言言葉を交わした男達は、あっさりと片手を上げ、振り返りもせず反対の方向へ足を向けた。その片割れ、静雄の背を呼び止める。
「よく飽きないねぇ、見せつけてくれちゃって」
「てめ──」
 瞬間、反射のように気色ばんだ静雄の腕を取り、サングラス越しの瞳を見上げる。
「──俺のことも、相手してくれるでしょ?」
 揺らいだ視線に笑みを返し、出てきたばかりのラブホテルへ彼を押し込んだ。
 きつい瞳が先に立つ臨也をなぞる。だが、抵抗はない。


「──気持ちい?」
 耳元にそっと吹き込むと、もどかしげに金色の髪が左右に振られる。
「応えてよ」
 両胸の尖りを捻りあげる。
「…いっ…」
「ねぇ、シズちゃん」
 二の腕を縋るように掴まれる。陶然とした瞳がぼんやり臨也を見上げた。
 紅い唇が小さく動いて、きゅっと一瞬閉ざされる。
「──きもち、い…」
 項に両腕を回され、引き寄せられた。胎内で角度を変えたいざやに、静雄の呼気が震える。
「なぁ──もっと…」
 唇の触れるぎりぎりで、快感に揺らぐ吐息が甘く撓む。
 こんなときだけ優しい眼差しが、誘うように臨也の視線を絡めとった。
 肩を押さえて唇を重ねる。甘やかな茶色い瞳がうっとりと細められた。
「もっと…何?」
 自分の掠れた声が疎ましい。
 ゆっくりと腰を退き、深く突き入れた。直前まで別の男を銜えていたせいか、いつもより熱い後腔がやんわりいざやに纏わりつく。
 びくびくとしずおが跳ね、泣きそうな音が喉奥から零れた。
「もっと、いっぱい? もっと…激しく?」
 ぐちゅ、ぐちゅと湿った音がする。絡みつく襞を振りきっては緩められる律動に、静雄の唇がわななく。
「どっちも──ざ、やぁ…」
 乱れる呼気を噛み締め、蕩けた瞳を覗き込む。心臓が震えた。
「──好き?」
 縋りつく手を捉え、指を絡めてシーツに押さえ付ける。
 腰を深く突き入れてやると、堪らないようにしなやかな肢体が跳ねた。
「好きでしょ、これ」
「っあ…あ…」
 ぱさぱさと髪がシーツを打った。
「好きだよねぇ」
 意味を理解しているのかいないのか、静雄がこくこくと頷く。
「ん、す…き」
「──もう一回」
 こんなの。寂しい彼のリップサービスだと、わかっている。
 寂しさを誤魔化す彼と、欲を満たす男の間で、零れ儚く流れる意味のない音。
「好き…ぁ…すき…っ…」
 それなのに。こんなに胸が高鳴る。
 ──無意味なままになど、させるものか。
 掌の中、しずおがびくびく痙攣した。
 白く濁った液体がとろとろと鈴口から溢れ出し、引き締まった腹筋に滴る。
 泣き出しそうに縋られて、胸の奥まで締め上げられた。


 飛んできた交通標識がショーウィンドーを貫いた。投げつけたナイフは玩具のように捩じ曲げられる。
 看板がコートの裾を掠めてビルに突き刺さった。
 ──これが、つい数時間前には自分の下で喘いでいた男だなどと、誰が信じるだろうか。しかも、そういうことは一度や二度ではないなんて。
 臨也自身にだって信じ難いのだ、他人は尚更だろう、彼と寝たことのある奴以外は。
 臨也は植木を踏み台に舞い上がり、集まる野次馬を見渡した。
 静雄を抱いたことのある男を数えあげ、そっと肩を竦める。
 ポールがコンクリートの壁を破壊した。
 同じ人間とは二度寝ない──そんな定評のある彼が、何故臨也とだけは幾度も寝るのか、臨也は知らない。その胸の内を問うてみたいとすら思わなかった。ただ──
 臨也は群衆の大半を占める、自分としては甚だ不本意なキョウダイ達を見下ろし、唇の端を持ち上げた。
 そして、怒りに翻弄される静雄に微笑む。
 視線の合った瞬間、まさに投げつけられようとしていた自動販売機がどさりと落ちた。
 ただ──俺は、こいつらみたいにはいかないからね…


2012.2.14.永


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