HEAD
にりん(BL、R18、臨静前提)
 静雄はその日、本当に疲れていた。
 まず、ここ三週間、表現し難い嫌な感じが続いていた。具体的に何か危害を加えられたという訳ではない。もちろん、街中で臨也と会ったら、ナイフの一本や二本飛んで来ることはあるが、彼以外に限定すると何もない。債務者がごねることすらない。気味が悪い程に、平和だった。
 だが、やはり、何処か違うのだ。気のせいだと言い切るにはあまりにしつこい、不快感。正体が分からない故にどうすることもできず、ただ日毎睡眠だけが浅くなっていった。
 そして、今日。
 午前中は、さほどでもなかった。少々仕事の相手が渋ったりはあっても、静雄が手を出す必要はなかった。
 しかし、昼食のハンバーガーを一口かじった辺りから、歯車が狂いだす。
 通りかかった臨也を条件反射で追いかけ、路地裏まで。珍しく真剣な顔をした彼に、具合でも悪いのと問われた。弱音など吐けるはずはないが、どちらからともなく唇を寄せたとき、タイミングよく鳴った携帯でトムに呼び戻された。
 別れ際にしてはいやに熱っぽい口付け一つで、先月分の回収に訪れたときに、思い切り悪く暴れた男の元へ走った。
 案の定、ぼんやりと火照りの残った体でドアを引き剥がす羽目になる。そいつだけではない。午後に回った場所には、一々静雄を苛立たせる者ばかりがいた。その度近場で凶器を作り出し──夕食を食べる暇もないまま、帰宅したのは日付の変わる直前だった。しかも食べ損ねた昼ご飯、冷めきったポテトとハンバーガーの入った紙袋というお土産つきである。朝食と溶けたシェイク以外を受け入れなかった胃は空腹を訴えてはいたが、そんなことどうでもいいくらいに、疲れた。
 だからだろうか、アパートに帰り、自室のドアの鍵が開いているのに気付いても、疑問を感じなかったのは。施錠し忘れたのか、それともあいつか。どちらかだろうと納得してしまった。
 一歩、玄関に踏み込んだ瞬間、最近続いていた嫌な感じが背筋を走り抜けたが、いつものことだと黙殺する。
 明かりの消えた室内を、窓から街灯の光が照らしていた。
 とりあえず手に持った紙袋を置こうとテーブルに近付いたとき、背後から伸びた手が口元に布を押し付ける。
「い、ざ…」
 ──いざや、じゃねぇ。
 反射的に肘を後ろの人物に叩き込む。生地を通して吸い込んでしまった空気が、つんと粘膜を刺激した。
「…っ…」
 男が一瞬息を詰め、手の力が緩む。呼吸器官を塞いでいたタオルが床に落ち、新鮮な空気が肺に満ちる。
 だが、遅かった。
 かたん、とサングラスが落ちる。視界がぐにゃりと歪んで、静雄の体は重力に従った。




 目を開くと、見慣れた天井があった。どうやら、いつもの自分の布団に寝かされているらしい。ぼんやりと眩しい電灯を見つめ、ゆっくりと瞬く。
「──あ、起きたぜ」
 その時聞き覚えのない声がして、意識が覚醒させられる。とっさに起き上がろうとしたが、体が動かなかった。拘束されている訳でもないのに、指先にさえ力がはいらない。
「──なんのつもりだ」
 それでもいうことをきいた声帯を震わせて、見下ろす男達を睨みあげる。
 侵入者は、二人。ほかに人の気配はなかった。
「意外と簡単だったな、高いクスリ用意した甲斐があるぜ」
「あぁ?」
「三週間も準備したんだ、当然だろ──池袋の喧嘩人形さんに二ヶ月前、病院送りにされた恩返しに来たよ」





「普通の体に見えるんだがなぁ」
「っ…あ…ん…」
 声がこぼれるのが腹立たしくて、奥歯を噛み締める。
 二人の間に座らされた静雄は、背中を男の胸元に預け、何とか上体を起こしていた。大きく開かされた足の間に陣取った男が、自身をねぶる。
「──一回いっとけ」
 耳に吹き込まれた音が言葉として脳に伝わる前に、胸の飾りが指先で捻りあげられた。
「──っ、あ…」
 男の口に含まれたしずおを甘噛みされる。
「あ、あっ──…」
 溢れる蜜を待たずに吸いあげられ、視界がスパークした。
 すっかりあがった息を整える間もなく、後腔に自分の放ったものを流し込まれる。するり、と指が秘所へと滑り込んだ。
 ──たった、それだけで、次を知っている体がぞわり、と先走った。
 体内を探る手付きは、無駄に器用なあいつのものとは比べものにならないのに、肌がぽおっと上気した。ごくり、とどちらともしれない男の喉が鳴る。
「…ぁ…ん」
 脳が、甘くぐずぐずととろけていく。
「ぅ、あっ…」
 増やされた指が、くちくちと卑猥な音を響かせる。
「──すげ…」
 男の声に隠しようのない興奮がまとわりついた。
「あ、もっ…」
 しずおの先端に軽く歯をたてられ、内部の急所を指先がつきあげる。大きく開かされた内股がびくびくと突っ張った。
「たまんね…」
 乱暴に指を引き抜かれ、足が抱えあげられた。押し当てられた正面の男の熱に体が、心が疼く。
「いっ、…あ、ぁ…」
「きっ…つ…」
 体が押し広げられる。あいつじゃないもので──視界に涙が滲んだ。
 しかしそのまま先を予想させた男は、後ろからもう一人が静雄の体を押さえることで動きを止める。
「待てよ、どうしてお前が先なんだ」
「…あ、つい…ちょっ、と待ってくれたら、すぐ」
「待てないって言ってるんだ」
 口論を始めた男達に挟まれ、静雄は乱れる吐息を噛み締める。
 内側からどくどくと伝わる他人の鼓動に心が揺らいだ。それでも、そっと四肢の筋肉に神経を集中させる。と、指先がぴくりと動いた。そろそろクスリとやらの効果が薄れてきたらしい。
 体が動きさえすれば──
 そのとき、肩越しに出された結論に、ぎくりと身がこわばった。
「じゃ、一緒にやろうぜ」
「あ?」
 静雄の意見を聞き入れようとするはずもなく、正面の男のものをくわえたまま、彼に体重を乗せられる。はっきりと意図をもった指が、開ききった後ろに触れ、冗談でなく血の気がひいた。
「待てっ、無理だ、入らねぇっ…」
「忘れんなよ、喧嘩人形さんに拒否権はねぇんだ」
 何処か楽し気な声音と共に、隙間から指が一本──更にもう一本ねじこまれる。
「いっ…てぇっ…」
 容赦なく2本の指で広げられ、出来た空間へもう一つの男が押し付けられる。
「──っ…」
 引き裂かれる痛みと一緒に漏れそうになる悲鳴を、唇を噛み締めぎりぎりで抑える。僅かにいうことをきく爪先が、シーツを少し歪ませた。鉄の味と込みあげた胃液が口内で混ざり、生理的な涙が頬を濡らす。
「っ…あ、…ぅ──」
 堪らずえずいても、胃液しか出てこない。真っ白なシーツにぽたぽたと血液が滴った。
「──入った、ぜ…」
「んじゃ…動くぞ」
「待っ──っあ、あ…─っ…」
 痛みで頭に霞がかかる。
「っ…すげぇ、いいぜっ…」
 いっそ失神したいのに、ぐっちゃぐっちゃと前から後ろから遠慮なくかきまわしてくれるせいで、それも叶わない。胃から溢れた塩酸が唇を灼いた。
 快感を拾うことなどできない、痛いだけの行為。相手はそうではないらしく、二つの肉塊がどくん、と膨張した。
「っ、や──」
 胎内で跳ねた牡が子種を撒き散らす。頭の芯までびりびりと凍みた。瞬間、意識が遠のく。
「寝てんなよ…まだ、だからな」
 2、3度乱暴に抜き差しされてまた凶器が力を得る。
 脳裏によぎった、いつも静雄を振り回す黒い男の面影が、内側を行き来する牡に追い払われた。
 夜明けは、まだ来ない。


シズ犯様に提出させていただきました。


2011.4.29.永


1/1ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!