WIZARD
3
 連れて行かれたのは、彼の悪友達は間違っても行かないような喫茶店だった。セブルスだって、自分では絶対に選ばないと断言できる。何が悲しくて店内がピンクとハートと天使に彩られ、それぞれのテーブルにキスを交わすカップルが犇めくような店に行く必要があるというのか。しかも悲しいことに、同級生を含め見覚えのある顔がほとんどだ。が、幸いというべきか彼らは皆同席の自分の相手しこ見ておらず、新しく入店してきた男子生徒二人連れのことなど目もくれない。さらに嬉しいことに、何処にもリリーの姿はもちろん、ジェームズもシリウスもピーターもいなかった。彼らにこんなある意味高度な店は似合わないが、それでも確かにいないらしいことに心底安堵する。こんな店にいるところさえ彼らには見られたくないし写真でも撮られたら泣くに泣けない。
 通された席は店の奥の方で、入り口からも目に付きにくいところであることにさらにほっとした。すぐ隣のテーブルで男女がうっとり見つめ合い唇を啄みあっているのは少々いただけないが、それはもう見ないことにしようと心に刻む。
「何にする? コーヒーでいいかな」
 周囲の浮かれきった空気をどう思っているのか、普段と変わらない調子のリーマスに、諾うより先に驚いてその顔をまじまじと見つめた。と、向かい合わせに座った彼の頬にじんわりと熱がこもり、ふと視線を逸らされたものだから、すとんと腑に落ちてしまった。
 彼は、確実に、セブルスを騙そうとしている訳ではない。
「あ…ああ、コーヒーで…」
 セブルスは女の子でもないのに、さっさとリーマスが代金を支払ってしまい、供された飲み物そっちのけで接吻を交わすカップルに囲まれてどきまぎと座り直す。
 どうにも落ち着かない。場所もだが、これがれっきとしたデートであるとするならばそんなことは初めてで、冷や汗ばかりがだらだらと流れる。
 リリーとのデートを夢見たことがなかったとは言わない。だが現実に目の前にいるのはリーマスで、彼女とは似ても似つかぬ狼男だ。だからといって今更椅子を蹴立てて帰るにも、すっかりタイミングを逃してしまった。
「この店はいやだったかい?」
「嫌…とは言ってない。こんなところによく来るのか?」
「今が初めてだよ」
 そのとき胸の内に過ぎったのは、確かな優越感だった。
 ジェームズとシリウスが近くにいるからそこまで目立ちはしないが、リーマスだってモテる方だ、セブルスより余程。だがそんな彼が、デートスポットとしか言い様のないところへ、セブルスと初めて来ている。それがとても嬉しく、胸を熱く高鳴らせてしまって、これでは本当のデートのようだ。
 常々血の巡りの悪い頬に血の気が挿し、それを隠そうとカップを持ち上げコーヒーを口に含む。少し冷めたそれはやたらと甘く、舌にシロップが絡み付いてくるようだった。そんなセブルスに向けられたリーマスの眼差しもとても優しく熱を帯びていて、呼吸が乱れ、周囲でイチャつく恋人達など目に入らなくなってしまった。


2022.1.11.永


3/3ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!