OTHERS
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 空腹であるなら、それを耐えるためにも眠るという生活の知恵は監獄で十分に身に付いていた。それに加えてけばけばしい男の懐かしい体臭に包まれてしまっては、少し眠ったはずなのにまたつい微睡んでしまう。
 そうやって、部屋の戸がノックされるまでの時間を無為に過ごしてしまった。控え目な音は絶えず波の響く船内では聞き漏らしそうだった。
 クロコダイルはしっかりと己を抱え込むドフラミンゴに一瞥をくれ、砂になってその腕から抜け出した。
「なんだ?」
 ドアの前に立ち、戸には触れずに問い掛ける。髪が乱れたままで、コートも纏っていないのに対面などできるはずもない。
「ボス…朝食の支度が整いました」
 刹那意識を向けたドフラミンゴは、間もなく覚醒しそうだった。
「Mr.1──不都合はねェか」
「ハイ──気持ち悪いくらいに」
「…」
 クロコダイルは手櫛でざっと髪を整え、スナスナの力で仮に固める。ベストとシャツの皺を軽く伸ばしてから戸を開けた。
 背後でドフラミンゴが起き上がる気配がした。
「社長…おはようございます」
「あァ」
 軽く視線で上から下まで眺め下ろしたダズは、常と大差ない。どうやら風呂も使わせてもらっているようだった。
「わに野郎…犬を可愛がるにも限度ってモンがあるだろォ」
 軽く一瞥した先には、ベッドの上に胡座をかき、わざとらしく拗ねたように唇を尖らせてみせる巨漢がいて、思わず漏れそうになった笑みを殺すため殊更眉間に皺を寄せた。
「なんだ…あァ、腹が減ったんだったか」
「あァ…今、届いたようだ」
「んー…?」
 のそのそとベッドから降りてきた彼は戸口まで来ると、クロコダイルの肩越しに戸口を覗く。そうして小さく鼻を鳴らした。
「下がっていいぜェ」
「──」
 唇を笑みの形に象った彼が、見える部分の通りの機嫌でないことはわかっていた。だが、頭の悪くない鳥は、日に一度の上限を破らぬ限りダズとクロコダイルが顔を合わせることまでは咎めだてしないはずだった。
「Mr.1。また来い」
「──ハイ、ボス」


2018.10.23.永


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