OTHERS
4(R18)
 実際のところ、あのときにだってクロコダイルはドフラミンゴのテクがそこまで救いがたいと思っていた訳ではなかった。若干独りよがりで乱暴ではあったが、だがだからといってクロコダイルが彼に乱暴に求められることをも全面的に厭っていたわけではなかった。
 大体クロコダイルだって暇ではないのである。セックスはスパイスではあるが、しなければ生きられないものでもない。であるならば、嫌な相手とヤっている暇なんてあるわけがない。
 だが、まあ、体が大きく変容したことは事実ではあったので、それを見られるのが若干気恥ずかしかったというのがひとつ、そして女の体ならば生理的反応で良くなくても濡れるが、男の体の生理的反応で漏れる可能性のある体液はきっとずっと少なくて、それでも濡れてはいるから砂にもなれず傷付く可能性も高いこと、傷ついたならばその後暫くトイレで悶々とするなんて間抜けな事態に陥る可能性の高いこと…だがまあ、どうしても嫌だった訳ではなかったから、もしあそこで下手だと言われたくらいでドフラミンゴの逸物が使い物にならなくなるほどの繊細さを持ち合わせていなかったなら、あの場で男の体の初体験を彼に捧げてしまっていたのだろうと思う。しかしドフラミンゴのどふらみんごは意外にも繊細であったものだから、どうにかこうにかその場は凌げてしまったたけだ。
 それに加えてまだ諦めていなかったらしい男が、口付けからして一皮剥けてきたならひとたまりもない。ただ唇を押し付けるだけでも、なんなら噛み付いてもクロコダイルの高揚を煽っていた男が、確かな意図と性技を保ってゆるゆると、輪郭を確かめるように舌を舐り、口蓋を舌の背で擽ってくるのだ、唾液を飲み下すことも無駄に長い舌に侵入されていては思うようにいかず、呼吸もうまくつけなくてぎゅっと眉が寄った。
 こんな男、色恋など野望のために邪魔にしかならないのに。綿密な計画に恋人の入り込む余地などないのに。
 だが、忘れてしまいたかった胸の奥に確かに一度は灯っていた恋の炎が、ドフラミンゴの舌が口内を舐るだけで沸々と蘇り、かきたてられるのがわかる。
 こんなもの、全て捨ててしまえると思っていた。だから、弱味を与えることになると理解した上で性別すら変えたのに。体の性がどちらであろうと、精神が体に影響される部分が多少なりあろうと、この男にかつてどうしようもなく惹かれた心まで封じ込めてしまうことはできなかった。こんなにも実のない想い、後生大事に抱えたくないのに。
 彼を切り捨ててしまいたいと思っているつもりなのに、体は相反して彼を求めているようで、右手をもふもふのコートを纏った彼の背に回す。指の埋まりそうな無駄に暑苦しい感触に、本当に鳥でも抱いているような気がしてきた。だが鳥などより格段に器用なドフラミンゴは口付けを深めながらクロコダイルのスカーフを抜き取り、ガードの堅い服装を着実に緩めていく。外気が開かれていく素肌を包み、どくどくと鼓動が高鳴る。小さく喉が鳴った。
「──イいだろォ? おれァ上手くなっただろォ」
 だが、誉めて欲しがっている仔犬のような物言いにどうにも素直に感じ入れず少し冷静になる。
 確かに触れ方は鍛えたのかもしれない。だが相手を快楽にとろかせ溺れさせるには、性根の方から叩き直さねばなるまい。
 つまりはどうあってもこの男はモテなさそうで、立場と性技を着実に身に付けていっているからこそ可愛らしい。こんなデカい男が可愛いなどどうかしている。そんな甘っちょろい情に囚われていたくなどないのに、なかなかこの男と縁が切れないのだから如何ともしがたい。


2021.10.9.永


あきゅろす。
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