LOSE
3(R15)
 朝になって、いつもの仕事の時間通りに朝を知らせる携帯のアラームを止める。ふと隣を見ると存外に幼い表情で折原臨也が眠っていて、知らず頬が綻んだ。こんな安っぽいラブホテルに彼が連れ込まれてくれるとも、性格の悪さをよく聞く男が実はこんなに可愛いところがあることも、こんな関係になるまで予想だにしなかった。知ってしまえば彼との時間はとても心地良く、つい癖になってしまう。時間を共に重ねるほどに愛しくなってどうしようもない。平和島静雄と付かず離れずずっと交流を続けてきたのだから、折原臨也の悪いところは多く目にした。仲の悪い静雄の側から見ている偏見も多少はあるかもしれないが、本当に性格が捻れている部分があるのは間違いないとも思っている。それでも、それをおしてあまりあるくらい情が芽生えてしまっている。そっと臨也の髪に手を触れる、とその柔らかさに思わず指を絡める。心無しかいい匂いまでする気がして、知らず喉が鳴った。あまり眠りの深くない臨也のことだから、とは思うのに、滑らかな髪に誘われ止められない。犬猫に対するようにゆっくりと毛並みに沿って撫で下ろした。
「ん…」
 子供がむずかるような呻きに、ぴくりと手を止める。だが、頭の位置を少し動かしただけでその瞼は開かない。それに気を良くして、そっと唇に唇を重ねた。いつも隙なく身なりに気を遣う彼には珍しく、唇は少し乾燥している。だが、それにすら無防備な様を見せてくれている喜びを感じてしまって、起きぬようにそっと身を引くと、ゆっくりベッドから抜け出した。浴室は、もう暖かさは残っていなかったが、床は少し濡れていた。どうやらトムが眠っている間に臨也が使ったらしい。同じ部屋に二人で泊まっているのだから、風呂を共有するなど至極当たり前のことなのに、何故か擽ったい。洗面所に二人の歯ブラシが並んでいるのを見たかのようなそわそわとしたざわめきが胸の奥を擽った。そのとき、ふっと、一緒に暮らしたいなんて浮かれた思考が脳裏を過ぎる。会って、食事して、セックスするのも悪くはないし、そのくらい即物的に盛りたいことがないとは言わないけれど、それだけではない、穏やかな時間や気の抜いた表情をもっと見てみたいと思ってしまった。臨也は良くも悪くも警戒心が強いから、まだトムをプライベートな空間へ踏み込ませてくれたことはない。けれど、トムは彼ほどに敵が多くはないから、そこまで見られて困るものがあるという訳でもない。ひとまず、狭いアパートだがトムの部屋へ誘ってみようか。

2021.6.18.永


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