LOSE
三つ巴(R12)
 最初は、気のせいだと思っていた。
 トムに彼女ができたことは何度かあったが、彼氏ができたことなんて静雄の知る限り一度もなかったし、またもし男と付き合うにしても敢えて折原臨也を選ぶはずがないと。静雄と馬が合わないことも勿論あるが、あの男は客観的に見てそんじょそこらの常人とは比べものにならぬほど性格が悪い。
 だが、どうやら田中トムは折原臨也と付き合っているらしいと確信するに至り、静雄は額に青筋を浮かべトムに詰め寄った。
 普段静雄がキレたときは素早く距離を取り、安全圏に逃げてしまうトムだが、珍しく自分に迫られてしまうとそうはいかない。ホールドアップして頬をひきつらせ、それでも静雄を落ち着かせようとしているらしく穏やかな声を繕う。
「まあまあ、落ち着け、静雄、な?」
 中学生の頃から何度も、それこそ数え切れない程静雄を鎮めてくれた穏やかな声音に、静雄の青筋が引いていく。ゆっくりと深い呼吸を重ねた。
「──臨也と、付き合ってるんすか」
 だが、その言葉を口にするとやはり苛立ちが募る。
 大恩あるトムに、とは思うのに、わかっていても息が乱れる。
 そして、トムは──否定しなかった。それがどういう意味であるのか確実に知っているはずなのに困ったように笑い、静雄の肩をぽんぽんと叩いた。
「お前を巻き込むようなことはねえから、な?」
 小さな子に優しく説いて聞かせるような口調にさらに憤りが込み上げる。
 トムにその気はなくとも、臨也がこれまでしてきたことを鑑みれば迷惑をかけられないはずはない。しかも今は、静雄の大切な人を恋人という形で質に取っているのだ。臨也は、あの穢い男は、静雄の心を揺さぶるための駒として田中トムを最大限活用するだろう。それだけではない、きっと静雄には考えもつかないような悪いことを企んでいるに違いない──
 そう思ったが、静雄がトムと臨也の私的交際を知ってからたっぷり1ヶ月経っても臨也は何も仕掛けてこなかった。ぴりぴりし続けるのにも限度があり、今や気になって仕方ない。臨也は昔から静雄を苛々させ続ける男ではあったが、彼が行動してこないことをこんなにも気にする日がくるとは思わなかった。そしてそれは、起こってしまえば非常に不快な出来事だった。俺を怒らせるなと口を酸っぱくして何度も言っているにも拘わらず、臨也がまた静雄を苛立たせようと画策しているようにすら感じられた。 だから、怒りのまま臨也のマンションに殴り込みをかけたのは、静雄にとって必然だった。しかし、トムが翌日が休日である日に、前日から恋人の家に泊まり込むのも、考えてみれば自然だった。
 チャイムを一度鳴らし、反応がなければセキュリティーごとドアを壊してやろうとはじめから額に青筋を浮かべ、しかし最初だけでも人間らしく、できるだけそっと触れるようにしてチャイムの小さなボタンを押す。加減したつもりだったがチャイムは一度呻くように鳴ったあとめり込んだ静雄の指のせいで崩れ落ちた。
 当然、通常の来客が鳴らすときとは違う音で住人に呼びかけたのだろう、ドアを開けた臨也は既に片手に刃を露出させたナイフを持っていた。
「何、シズちゃん。俺は君の相手をするほど暇じゃないんだけど」


2020.5.4.永


1/7ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!