LOSE
文化祭(R15)
 文化祭。普段は違う学校に通う連中がたくさん集まり、商売の真似事をしたりステージを開いたり異性装をしたり…非日常に浮かれる学校の、どうしたっていつもよりずっと人の増えた校舎のざわめきを遮りはしない男子トイレの個室で、門田は臨也と唇を重ねた。
 上にも下にも隙間のある薄っぺらいドアのすぐ外を、浮かれた声が何度も過ぎる。こんなところでは何をしようもないはずなのに、たまたま用を足しに来たとき引きずり込まれた個室から出られない。せめて周囲に人がいなくならないと男二人連れ立って同じ個室から出て来ては怪しすぎる。しかしそれはもしかしたら、ただの言い訳かもしれなかった。
「ん…」
 小さく鼻にかかった声を漏らす臨也に、腰の奥が熱くなった。
 こんな関係になってこそいるが、臨也に対する好意はさほど育ってはいないと思っていた。ただ、都合がいいから関係を断ち切らぬだけなのだと…これで相手がもし本気なら酷い振る舞いだ。だが臨也に限ってそんなことあるはずがない。いつだって自分の本心は悟らせず、周囲を翻弄することを楽しむ男だ。
「──折原」
 関係性からすると多分に情熱的に過ぎるキスを解き、彼の耳朶に濡れた音を絡ませる。ぴくり、と小さく肩が跳ね、しかしすぐに不敵な色を瞳に纏わせ真っ直ぐ睨まれた。
「ここではしないよ。そんなにスリリングだと危険だろう?」
「誘ってきたのは折原だ」
「今年もドタチンと同じクラスになれなかったからね」
 臨也の言葉がどこまで本気かわからない。ただ、中途半端に煽られた欲を制御できる程、まだ門田の理性は成熟しきってはいなかった。
 和式便器を避けて彼を隣の個室との境の壁に押し付け、足の間に膝を割り込ませる。
「っ…しない、ってば──」
 少し動揺した声が嬉しい。その耳元に顔を寄せ、低めた声で囁いた。
「俺と同じクラスだったらどうしてたんだ?」
 紅く潤んだ瞳が門田を睨み上げる。しないなんて言ってはいるが、体は既にその気になっているのが触れた腿に伝わってくる。
「──来年は一緒だよ」
 根拠のない断言、ではないのだろう、きっと。折原臨也のことだから、そう言うに足るだけの何かをしでかしたのだ。
「へえ…じゃあ修学旅行もずっと一緒か」
 浮かんだ考えが言葉になったとき漸く、もしかして臨也にちゃんと惹かれてしまっていたのだろうかと思った。何よりも性格の悪さで有名な折原臨也に恋してしまうなど人生詰んだも同然である。
「離れてよ。後でしてあげるから」
 ぐいぐい肩を押され、仕方なく距離を取る。臨也も門田もしっかり高揚していて、この状況で外に出るのは少しはばかられる。門田は学ランを脱いで自分の腰に巻き付けながら、意外と両想いかもしれない関係に思いを馳せた。


2019.2.12.永


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