LOSE
2(R18)
 永遠の21歳、などと嘯いていつまでも精神的快楽に忠実に楽しいことを生業にしていても、性的衝動は落ち着きつつある自覚はあった。それでも、正臣くらいのときはこんなだったのかなあ、とぼんやり思う。良くも悪くも究極のところ下半身に支配され、どんなに嫌ってみせても行為に誘われると一も二もなくなってしまう。
 ──いや、それでも臨也は相手を選ぶ理性はあった。では、彼は…
 臨也は大きく足を開き正臣を受け入れて、その割に冷めた思考を巡らせる。
 彼に愛されてなどいないことは知っていた。臨也は正臣を高揚させるためにわざと甘く濡れた声を上げ、彼の首に腕を絡ませる。
 好いた者と肌を重ねるならば、たとえ思いが通じあっていなくとも、身も心もとろけてしまいそうに心地いいものであって然るべきだと思う。ところが高ぶる体と裏腹に心は氷のように冷え、いくらいざやが硬く反り返ったところでこれでは不感症と変わらない。
 それでも、正臣が好きだった。
 いつからだったかはわからない。彼を徹底的に傷付けてやろうとして、沙樹を操ったあのとき、その原動力になったのが人間への愛と同じものだったのかは、もはや臨也にもわからない。高校を辞めさせ、彼を手元に置いたとき、いつの間にか正臣を特別に愛していたことを知ってしまった。
 ──だからこそ。愛しているからこそ、それは生涯気取られてはならなかった。
 正臣は自分の、沙樹の人生を狂わせた臨也を憎んでいた。その憎しみは、他の人間達から向けられるものと似ているはずなのに、臨也にとっては決定的に違った。
 肉体は脆弱だ。誰でも同様に傷付けることができる。
 しかし、精神に向ける刃は違う。心をより深く抉ることができるのは、より深く愛してしまった者だ。心に受け入れてしまったその深さだけ、容易に傷を付けられる。表層は筋や皮に守られても、内臓の内側は無防備なのだから当たり前だ。それを思うと、今まで愛した数多の人間達の誰も臨也の心に傷ひとつ付けられなかった辺り、あんなに深く愛してあげたにも拘わらず臨也自身はまるで心を捧げてなどいなかったということかもしれない。振り回し、傷付け、引き裂き、そうして慈しんで楽しんできた臨也にとってこれはこの上ない皮肉だった。ようやく、本当に心を捧げた年下の男には、きっと無自覚に同じことをされている。彼は臨也が本当に心を捧げているなど、思いあたりもしないのだろう。


2019.5.6.永


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