LOSE
3(R18)
「っ、ざや、さん」
 彼の手を払おうとした指先が鋭利な刃物で浅く裂かれる。鼻をつく血の匂いに眉をひそめた。
「何? 嫌じゃないだろう」
 じりじり痛む頬の傷とは裏腹に、確かにまさおみは反り返っている。それを無造作に鷲掴まれ、一瞬手の力が緩んだ。
「い、やに決まって──」
 彼の手に触れられて脈打つまさおみが、説得力を奪っていることはわかっていた。それを誤魔化すために、頬の痛みを無視していざやに手を伸ばす。意図を察した彼は不敵にわらい正臣の手を無造作に掴んだ。
「嫌なくせに何をしてるの?」
 何故こんな男と、と思うほどかんに障るのに、しかしその微笑みに簡単に煽られてしまう。正臣は自分の顔の脇に突き立てられたナイフの柄を握り、ベッドの下へ投げ捨てた。
「──もうあんた、黙っててください」
 目尻まで伝う血潮を拭い、臨也を睨み上げる。やっぱり楽しげに嘲う臨也の胸倉を掴み、押しのける。
 上体を起こす、と意図を感じたか、自ら彼が横たわった。協力的であってさえいちいち癇に障るのは、これが臨也だからだ。
「わー正臣君ってば積極的!」
 小馬鹿にする口調には耳を塞ぎ、彼のコートを割開く。薄手のVネックの裾を捲り上げ、薄い胸筋までを露にした。
 ──こんな性格をしている分、その肉体は魅力的だ。きっとこれは釣り合いが取れているということなのだろう。ジーンズのチャックを手早く下げ、屹立したいざやを掴む。どくどくと脈打つそれは大人のもので、まだ日頃は剥けていない自分と比較するだに虚しくなる。しかし、それ以上に興奮した。一瞬臨也を睨み付け、彼自身を口内に含む。苦い液が先端から滲むのを、音立てて吸い上げた。
 緩くひらかれたジーンズの腿が小さく痙攣する。濡れた息が徐々に乱れ、さっきまでの姿とも相俟って小気味良い。
「っあ…なん、だよ。今日はそういう気分?」
 彼の反応が楽しくていざやばかりを舐めていたら、何故か不満げな声が落ちる。
 もどかしくもぞもぞする足を目の端に捉え、彼の顔に視線を投げる。濡れた眼差しを黙殺して、玉の袋を掌にすくい上げた。痛みを感じないぎりぎりの圧で緩く握って持ち上げ、露になった後腔に顔を寄せる。口をつけず息を吹きかける、と細い腿に挟まれた。
「──調子、のってるなよ」
「でも──こういうのも、好きなんでしょ、臨也さん」
 いつも偉そうにしていても、その心のどこかに翻弄されたい願望があるのかもしれない。
 つまるところ、正臣がどうしたって彼を喜ばせることにしかならない。心底腹立たしい、のに。頬を紅潮させ睨む臨也を見ていると、どうでもよくなってしまった。もっと──なんて思いが突き上げ、掌に睾丸を転がす。強すぎない痛みになるよう握ってやるだけで、声が面白いように艶めいた。
「──今日だけは、納得してあげます」
 憮然とした声は、繕いきれなかった。


2017.6.19.永


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