LOSE
毒蝶
 陽光の中、笑い合う制服のカップルを眼の端に入れ、ターゲットに注意を払いながらも正臣は内心溜息をついた。
 日の当たる場所を歩いていくのが当たり前だと無邪気に信じている彼らが眩しくて、もはや直視できない。
 いつからこうなってしまったのだろうと思う。あんな中二思考のイカレた男と知り合うことさえなければ、今も尚正臣はあちら側にいられたかもしれないのに。
 ──その、瞬間。
 昨日あの男と重ねた素肌の感触がまざまざと蘇り、正臣は小さくかぶりを振った。本当に、あの男は中毒性があってタチが悪い。それに今は、忌々しい男の指示とはいえ仕事中だ。
 ──そのとき。光の似合わぬターゲットが確かに正臣をその瞳で一瞥した。と思うも束の間踵を返し、人混みの中へ足早に突っ込んでいく。刹那足を止めた正臣はすぐに自分の役割を思い出し、その背を追い掛ける。


 そうして、四半時ばかりも日光の似合わぬ攻防を続けただろうか、気付くと夕闇の迫る中、誘導された路地裏で、彼の仲間に囲まれていた。
「なんすか、俺はただ道を歩いていただけなんですけど」
 冷や汗を滲ませながらも飄々と惚けてみせる。彼らの殺気は変わらない。こんなところで揉め事を起こしている場合ではないのに。
 まあ臨也は、こんな報告を受けたところで怒るどころか盛大に笑うだけなのだろうけれど。しかしそれは何の救いにもならない。むしろ、彼に嘲笑されるなど腹立たしい。
「なにトボけてやがる、俺の後ろをずっとついて来てやがったから、こんなところにいるんだろうが」
 こうなったら仕方ない、ここでカタをつけてしまうしかない。そう腹を決めて体の横で拳を作り片足を僅か引く。臨也の笑い声が早くも響いているようだった。


2016.5.4.永


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