LOSE
契機(R15)
「うん…うん、そうだね。僕には君のその辛い気持ち、よくわかるよ」
 神妙な声で携帯電話に語りかける臨也の唇はニヤニヤと弧を描いていた。
 何故、電話相手は彼の白々しさに気付かないのだろう、と臨也のベッドに横たわり正臣は思う。なにより、強引に連れ込んで妖しげな手付きで散々にまさおみを煽り立てておきながら、つい先日知り合った自殺志願の少女の電話をためらいなく優先し、しかも楽しげに応対しているとは何事だ。やはり臨也は嫌いだと数えきれぬほどによぎった考えがまた浮かぶ。
 しかし、そこではたと思い当たり正臣は勢い良く上体を起こした。臨也がちらりとこちらを見たが、正臣はそれどころではない。
 これではまるで、嫉妬でもしているみたいだ。
 あんな胸糞悪い男が、他の女を見ていたから、だからどうだというのだ。なんなら同じようにベッドに連れ込んだところで正臣は痛くも痒くも──そこで、吐き気すら覚えるほどの嫌悪が込み上げる。その原因は薄々察していたけれど、絶対に理解などしたくない。代わりに虚しい自己暗示で対抗を試みた。
「正臣君?」
「全世界の美女は俺の…へっ? なんすか?」
 自己暗示に没頭するあまり、臨也の通話の終了にも気付かなかったらしい。いけ好かない男が驚いたように瞬くのを見て、ほんの僅か溜飲を下げた。
「残念だけど、全人類は俺の玩具だよ」
 すぐに立ち直り、相も変わらず痛々しいことを傲慢にほざく彼の手首を掴みそのベッドへ引き入れる。さしたる抵抗もなく正臣の腕に飛び込んでなお彼は、肩を震わせ声を立てて笑った。
「もしかして、妬いたのか」
「もう会ったコも、これから会うコも、全世界の美女は俺のマドンナです…もう黙ってください、うるさいから」
 忌々しい唇から視線を逸らし、耳朶に噛み付いた。


2015.5.4.永


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