GORILLA
2(R15)
 まだまだネオンのぎらつく街を、近藤を背負って歩く。吐く息が白い。
 万一の襲撃があってはいけないので、繁華街の外れにパトカーを回してもらっている。たったそこまでの辛抱とはいいながら、いつまでもこの時間が続けばいいと願う心があった。
 近藤の寝言が耳朶を甘く擽った。腰の下を抱き揺すり上げると、ちくちく髭が項を刺す。
 自分なら、妙より近藤を大事にできる、と思った。なのに彼が原田を選ぶことはきっとない。
「ん──はらだァ…」
 息が止まった。近藤を背負うのは大したことではない。なのに、膝が笑う。
 首に絡められた腕の温度に小さく唾を飲み下す。
 ぐいと顎を上げた視線は、チカチカするラブホテルのネオンに絡め捕られた。


「ああ、大丈夫だ…ご苦労さん」
 ラブホテルの大きなベッドに腰を下ろし、迎えにきていた部下を電話一本で戻らせて原田は大きく溜息をついた。真後ろでは、己の置かれた状況を解さぬオオトラが大の字になり幸せそうな鼾をかいている。
 ──振り返るのが怖かった。
 原田は着物の袖に携帯を入れ、膝に手を当て深呼吸を繰り返す。近藤の、規則正しく上下する胸を横目で伺い、掌で携帯を押さえた。
 知らず息が上がる。じんわりと汗すら滲み、吸収する髪のない雫が額を伝い頬に流れた。
「…局長」
 掠れた声を小さく漏らし、奥歯を噛む。ゆっくりと腰を上げ、そして──
 距離を置いた。
 やはりこんなこと望むべくもない、自分には勿体無いお人だ。
「はらだ」
 が、背に届く存外にしっかりした声に、肩が跳ねた。
「局長…?」
 恐る恐る振り返る。
 頬を上気させ、どこかぼんやりと酔いに呑まれた近藤は、それでも上体を起こし咎めるように唇を尖らせ。原田を真っ直ぐに見ていた。
「俺、すっげー待ってるんだが」
「は…?」
「だからァ…」
 大の男が拗ねたように手足をばたつかせても、可愛くはない。けしてそんなはずはないのに喉が鳴る。
 ぴた、と近藤は動きを止め両手を広げた。
 考えるまでもない、これはただの酔っ払いだ。そんなこと充分過ぎるほどわかっているのに、原田はふらふらと引き寄せられるように彼に近付く。
 手の届く位置に入った瞬間抱き締められ、近藤の上に倒れ込んだ。酒のせいか熱い体に息が震えた。
「なんだ、俺ばっかどきどきしてるみたいじゃん」
 唇を尖らせ原田の仏頂面を詰る彼の腰に手を回し、くるりと体勢を入れ換えた。
 ベッドに両手をつき、腕の間でぱちぱち瞬く近藤の唇を噛み付くように奪った。
 緩く開いた両膝の間に挟まった腿をかれにおずおず近付け、確かな高鳴りを感じて目の前が真っ赤に染まった。


2018.8.28.永


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