GORILLA
7(R15)
「局長! ただいま戻りました!」
 捕らえた浪士をパトカーに押し込み、騒々しく帰還した隊士連中を外で待っていた近藤を目敏く見つけ、山崎はつい声を弾ませ敬礼する。その行動に、いつもと違うものを嗅ぎとったのはやっぱり土方で、捕虜を連行して行くのを監督していた土方の口許からぽろりと火の点いたままの煙草が落ちる。後で何か弁解を考えておく必要があるかもしれない。だがそれとは逆に近藤は何の違和感も覚えなかったらしい、満面に笑みを浮かべて山崎に片手を上げた。
「おう! おかえり、ザキ!」
 じんわりと胸の内が熱くなる。
 ここが片付いたら土方に口頭で報告し、書類を仕上げたら山崎は一旦休暇になるはずだ。──まあ、土方との面談で次の調査がすぐに振られる可能性はあるが、そうだとしても今夜くらいは屯所の布団でのびのび休めるはずだ。絶対今夜は彼のところへ忍んで行こう。──そう、思って、夜を楽しみに副長室を辞去し監察方の部屋に引っ込み面白くもない報告書を仕上げようとしたのに。何故か、近藤が先に山崎の部屋で待っていた。
「え、局長?」
「ご苦労さん。よくやったなァ!」
「え、えェ、ありがとうございます」
 確かに一緒に過ごしたかったし、夜を楽しみにもしていたけれど、書くべき報告書から即座に気持ちを切り替えられず曖昧に頷く。それだけで、人の機微に決して鈍感な訳ではない近藤は少し眉根を下げた。
「すまん、まだ忙しかったか?」
 志村妙に迷惑がられているのにもこれくらい気を配れていたら、彼女の対応もまた違ったものになっていただろうに──いや、実はあれは本気で嫌がってはいなかったのだろうか。だとしたら──
 山崎は浮かんでしまいかけた悲しい想像を即座に打ち消し、背伸びして彼の頬に手を触れた。意図を察しず首を傾げた近藤の項に体重をかけ、厚めの唇に唇を触れさせる。
「っ…ザ、キ──」
「すげェ、会いたかったです」
「ッ…うん、俺も──」
 ぽ、と浅黒い肌に血の色が昇る。目を細め、今度は自ら身を寄せてきた彼と唇を重ねた。確かめるように唇の狭間を舌先で舐る。微かに鼻にかかった声が漏れた。
 この男が、他ならぬ山崎の手を取ったなど信じられない。彼は、もしかしたら志村妙を手に入れることだってできたかもしれないのに。でも山崎は狡い大人の男なので、そんなこと教えてやるつもりはないけれど。
 おずおずと差し伸べられた舌に舌を擦り付け、熱い呼気をうっとり絡ませる。近藤の大きな手が山崎の肩にかかり、縋るように握った。
 彼の方が体格も良く男らしいのに、こんな口付けひとつで山崎に翻弄されてくれている。そう思うと堪らなくて、絡ませた舌を擦り合わせ、彼の隊服のラインを伝い腰まで撫で下ろした。
 まだ仕事が終わっていないとか、あんまり遅くなると土方が自ら書類を回収しようと急かしに来てしまうかもしれないとか、わかってはいたが、せっかく近藤がこんなに近くにいてくれるのに止まれよぅはずがなかった。
 逞しい体を夢中になって抱き締め、唇を吸う。微かな声が、震える息が、堪らなく脊髄から高揚させる。流石に自分の息が苦しくなって少し顔を離すと、近藤は壁に背を預けへたり込むようにその場に座ってしまった。いつも見上げてばかりだった彼が何だか小さくなってしまったようで、体育座りに割り込み頬を両手で挟んで視線を合わせる。とろりと濡れた一重が恍惚と山崎を見返した。
「ザキィ…ムラムラする」
「──俺もですよ」
 色気も何もない言葉を熱っぽく交わし、もう一度唇を重ねた。
 ムラムラするより先に、好きとかそういうことを言えば、まだロマンチックだと思う。男同士だからってそこまであけすけである必要もない。それでも、この本能に忠実過ぎる開けっぴろげな素直さを好ましく感じているのもまた事実だった。


2021.12.21.永


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