GORILLA
3(R15)
 鳥の鳴く声で目を覚ました近藤は、いつもと同じ時間に重い瞼を持ち上げた。だが体が動かない。特に普段では有り得ないくらい重い左腕に恐る恐る目を向けると、すやすや眠る山崎を見付けてしまって、全てを思い出した。だが思い出しても信じ難く、あれは夢だったのだろうかとすら思う。
 だって、いくら大所帯で同居しているとはいえ自分個人に与えられた部屋で自慰をしていたら、天井を外し山崎が侵入し、そのまま抱かれたなんてどう考えてもおかしい。しかも体は一人遊びすらなかったかのように綺麗に拭かれている。しかし布団の隅にはくしゃくしゃに丸まった状態で乾いた手拭いがカピカピしているし、天井の板は人が一人通れるくらいにズレて開いている。
 やっぱり現実だったのだろうか。いや、現実でなかったならそもそも山崎がここにいる意味がわからない。局長室は監察方が寝ぼけて部屋を間違って入り込んでしまうような場所ではなかった。
「──ザキィ」
 肩に手をかけ軽く揺さぶる、と山崎は熟睡していたように見えたのに、ぱちりとすぐに目を開いた。流石だ、と何故か感心してしまう。
「──おはようございます、局長」
「…あァ、おはよう…あのさァ、昨夜──」
 切り出したものの寝起きで回らぬ頭では次の言葉が出て来ない。もはや山崎の方がずっとしっかり目が覚めて見えた。
「すみません、俺、ずっと前から見とりまして」
「…うん?」
 機先を制され、とりあえずしっかり聞かねばならぬともぞもぞ身じろぎせめて背を伸ばし山崎に顔を向けて横臥する。腕の中に収まってしまうくらい小柄な彼を、こうして腕に抱いてみると決して悪くはなかった。いや、昨夜抱かれたのは近藤だったけれど。逸物も体の割にいやに大きかったけれど。
「アンタが好きなんですよ、俺は」
 さらりと断言された言葉に息を飲む。そんなこと、考えたこともなかった。もちろん近藤のことを隊士みんなが好いていて、そしてまた近藤も彼ら一人一人を好いていたけれど、まさかこの毛だるまの尻に突っ込みたいなどと思う者がこんなに近くにいたなんて思いも寄らなかった。
 だが、既成事実が先にあって、なおかつそれが欲を吐き出してなお覚めず翌朝の賢者タイムにもめげず好意を告げてしまうということは、つまり本気だということなのだろう。
「えー…と…何で…俺?」
 だが、だからといって素直に受け入れることもできず、つい面倒臭い女のようなことを言ってしまった。その事実に近藤が気付いたのを、山崎はすぐに察して肩を竦め笑った。
「アンタは太陽みたいなお人だから──人に慕われるようにできとるんですよ」
 婉曲な物言いに、まだいくらでも異議を唱えることはできる気がしたけれど、何よりその優しげな垂れ目に浮かんだ温かい熱のような想いを見てとって、ぽっと頬が熱くなった。山崎の手が近藤の二の腕を確かめるように触れる。
 もう、この手を拒む理由も方法も思いつかなかった。


2021.10.2.永


3/11ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!